判例・事例

子の不法行為に対する親の監督責任

2015年5月8日 その他


【はじめに】
 本年4月9日、最高裁判所で小学生が蹴ったボールで転倒し高齢者が死亡した事案で、小学生の親の損害賠償責任を認めなかった判決が出されました。今回は、この判決の持つ意義について考えたいと思います。

【事案の概要】

 放課後、児童に開放された小学校の校庭においてゴールネットが張られたサッカーゴールに向かって、小学生(以下「A」といいます)がフリーキックの練習をしていた。Aがゴールに向かってボールを蹴ったところ、そのボールは、ゴールを超え、さらに南門の上を超えて、門と道路の上に架けられた橋の上を転がり、道路上に出た。自動二輪車を運転して同道路を進行してきた高齢者(以下「B」といいます)は、そのボールを避けようとして転倒した。Bは、この事故により左脛骨骨折等の傷害を負い、その後誤嚥性肺炎により死亡した。
なお、ゴールは校庭の南端に設置されており、ゴールの後方約10mの場所には高さ1.3mの南門があり、その左右には1.2mのネットフェンスが設置されていた。南門と道路の間には1.8mの側溝があり、そこには橋が架けられていた。小学校の周辺には田畑も存在し、道路の交通量は少なかった。Bの両親は、危険な行為に及ばないよう日頃からAに通常のしつけを施してきた。


【判決の要旨】

 原審の大阪高裁では、ゴールに向かってフリーキックの練習をした場合には、ボールがゴールを外れ門扉やネットフェンスを越えて本件道路に飛び出ることが十分予想されたといえるとし、Bの両親については、校庭で遊ぶ以上どのような遊び方をしてもよいというものではないから、この点を理解させていなかった点で、監督義務を尽くさなかったものと評価されるのはやむを得ないと判断していました。
これに対して最高裁では、本件ゴールに向けてサッカーボールを蹴ったことは、ボールが道路に転がり出る可能性があり、道路を通行する第三者との関係では危険性を有する行為であるということができるとは判断しつつ、本件ゴールにはゴールネットが張られ、その後方約10mの場所には南門とネットフェンスが設置されており、これらと道路の間には1.8mの側溝が存在したことを指摘し、本件ゴールに向けてボールを蹴ったとしても、ボールが道路に出ることは常態であったとは見られず、本件ゴールに向けたフリーキックの練習は、通常は人身に危険が及ぶような行為であるといえないと判断しました。
そのうえで、両親の監督義務につき、子の行動についての日頃の指導監督は、ある程度一般的なものとならざるを得ないから、通常は人身に危険が及ぶものとはみられない行為によってたまたま人身に損害を生じさせた場合は、当該行為について具体的に予見可能であるなどの特別の事情が認められない限り、子に対する監督義務を尽くしていなかったとすべきではないとしています。


【親の監督義務について】

 本判決は親の監督責任を否定した事例として多くのメディアで取り上げられ、注目を集めました。その理由は、責任能力のない子が不法行為をした場合には親の監督責任が否定されることはほとんどなかったことにあると思われます。しかし、今回の判決で注目すべき点は、フリーキックの練習をしていてゴールに向かってボールを蹴ったところゴール後方10mに位置する門やフェンスを越えて、さらに1.8mの側溝の上にかけられた橋の上に転がり道路に出たという極めて稀で特殊な事情があったということにあります。このような特殊な事情があったため親の監督責任が否定されたのが今回の判決であり、この判決をもって、一般的に親の監督責任が認められにくくなったと解釈することは難しいと思われます。

以上

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