判例・事例

商標法の改正について~新しいタイプの商標の保護~

2014年7月31日 知的財産権:特許・実用新案・意匠・商標・著作権・不正競争防止法


1 新しいタイプの商標の保護

今回は、改正商標法(遅くとも平成27年5月14日までに施行予定)をご紹介いたします。

改正法によって、従来商標法による保護の対象外とされてきた「音」、「輪郭のない色彩」、

「動き」、「ホログラム」、「位置」(これらを「新しいタイプの商標」と呼ぶことがあります。)

についても商標登録が可能となります。

これは、近年のデジタル技術の急速な進歩や商品・サービスの販売戦略の多様化から

新しいタイプの商標の保護のニーズが高まってきたことに対応するための改正です。

例えば、電気自動車の起動画面や起動音の差別化対策はグローバルに事業展開を

行っている企業においては言語を超えた有効なブランドメッセージの発信手段となっています。

既に欧米等の海外では新しいタイプの商標登録が認められており、日本企業が外国で

商標登録を進める例も増えています。
(輪郭のない色彩の商標例)

【米国登録3252941】株式会社トンボ鉛筆(文房具、筆記用具類)
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おなじみの青、白、黒のトリコロールをみると消しゴムのケースが想起されます。

(音の商標例)

【欧州登録2529618】久光製薬(薬剤)
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CMなどで耳にする「ヒ・サ・ミ・ツ♪」という音が商標として登録されています。

なお、「におい」や「味」なども商標として保護すべきかどうか議論されましたが、

今回の法改正では保護対象への追加が見送られました。
2 新しい「使用」行為

従来、商標法では、文字や図形などのマークを商品等に付する行為を商標の「使用」行為

と定義していました。これに対して、改正法では、視覚で認識できない「音」については、

機器による再生や楽器による演奏といった音を実際に発する行為等も商標の「使用」に

あたると定義しています。
3 登録要件

商標の基本的機能は自他商品役務識別機能(以下、単に「識別機能」といいます。)です。

例えば、ある商品名(文字)を見た人が特定の商品と、他の会社の商品とを区別して認識

することができるという機能です。

識別機能を欠く標章(マーク)は、商標として保護するに値しないため、登録が拒絶されます。

新しいタイプの商標の場合、例えば、石焼き芋の売り声や夜鳴きそばのチャルメラの「音」の

ように商品又は役務の取引に際して普通に用いられている音、単音、効果音、自然音等の

ありふれている音、クラシック音楽や歌謡曲として認識される音などは原則として自他商品

役務の識別力がないため、商標登録が認められません。また、単一の色彩やもっぱら商品等

の機能又は美観の向上のために使用される色彩からなる「輪郭のない色彩」についても同様です。

しかし、こうした一見識別力に欠ける「音」や「輪郭のない色彩」でも、長年の使用により識別力

を獲得した場合、例外的に登録が認められる場合があります。

今後、商標のタイプごとの商標審査基準が改訂され、具体的な基準が明らかになる予定です。
4 類似性の判断

登録商標と同一の又は類似する商標を使用すると、商標権侵害とされ、損害賠償請求や

使用の差止め請求を受けることになります。

登録商標と使用商標が類似しているかどうかの判断については、従来、商標の外観、観念、

呼称等によって需要者等に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察して判断すべき

という考え方がとられていました。

新しいタイプの商標に関する類似性の判断についても、基本的には従来の考え方を踏まえつつ、

タイプごとの特性を考慮した判断をする方向で、現在産業構造審議会のワーキンググループで

審査基準が検討されているところです。

新しいタイプの商標が認められることによって、企業の経済活動のさらなる進展が期待できる

反面、これまでなかった新たな権利関係の調整も必要になってくるものと思われます。

実務における今後の運用が注目されます。

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