判例・事例

著作権と所有権

2007年7月2日 知的財産権:特許・実用新案・意匠・商標・著作権・不正競争防止法


1 著作権とは

 著作権者は、その著作物について著作者人格権と著作権を享有します(著作権法17条1項)。
 著作物とは、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」(著作権法2条1項1号)をいい、それは著作権法10条1項で例示されています。
 この著作物について、著作者は著作者人格権と著作権を有するのですが、著作者人格権とは、著作者の人格的利益を保護する権利で、著作権法は公表権(18条)、氏名表示権(19条)、同一性保持権(20条)の3つの権利を定めています。
 著作権とは、著作者の財産的利益を保護する権利で、複製権(21条)、上演権及び演奏権(22条)、上映権(22条の2)、公衆送信権(23条)、口述権(24条)、展示権(25条)、頒布権(26条)、譲渡権(26条の2)、貸与権(26条の3)、翻訳権・翻案権(27条)、二次的著作物の利用に関する権利(28条)など著作権法で定める個別の権利(支分権)を総称したものです。
 そして、この著作者人格権や著作権は、著作物の創作と同時に発生し、権利の発生について登録等の手続は要りません(もっとも、著作権の移転や質権の設定等を第三者に対抗するには、著作権登録原簿への登録が必要です)。
 著作権の存続期間は、著作物の創作の時に始まり、別段の定めがある場合を除いて、著作者の死後50年を経過するまで存続するとされています。

2 所有権とは

所有権は、一般的に、物に対する全面的かつ排他的な支配を及ぼすことができる権利であるとされています。
 ちなみに、民法206条は、法令の制限内という留保つきながら、基本的に「自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利」であると定めています。
 所有権には、著作権のような存続期間はなく、原則として、物が存在する限り所有権が消滅してしまうことはありません。

3 設例

 Xは、中国古代の書道家が記した書画を所有していたところ、Yは、X宅に行った際、その書画をXに無断で写真撮影し、その写真を中国古典書画集として発売した。
 Xは、Yに対し、書画集の差し止め及び損害賠償請求が可能か。

4 検討

ア 本件書画は、美術の著作物に該当すると考えられますが、中国古代に書かれたものであることから、著作権は既に消滅しています。
従って、著作権侵害を理由として差し止め及び損害賠償請求はできません。
ちなみに、書画が最近書かれたもので、Xが著作権を譲り受けているなどしていれば、Yの行為は、Xの有する著作権の侵害になります。
 そこで、Xとしては、書画の所有権を侵害したとして、所有権に基づいて書画の差し止め、不法行為に基づいて損害賠償の請求を立てることが考えられます。
   他人の所有物を無断で写真撮影することが所有権の侵害になるのかがポイントです。
 イ 同じ様な例で最高裁(最判昭和59年1月20日第二小法廷判決)は、「美術の著作物の原作品に対する所有権は、その有体物の面に対する排他的支配権能であるにとどまり、無体物である美術の著作物自体を直接排他的に支配する権能ではない」と、著作権と所有権の権能の相違を論じた上で、「著作権が消滅しても、そのことにより、所有権者が、無体物としての面に対する排他的支配権能までも手中に収め、所有権の一内容として著作権と同様の保護を与えられることになると解することはできない」と述べ、「著作権の消滅後に第三者が有体物としての美術の著作物の原作品に対する排他的支配権能をおかすことなく原作品の著作物の面を利用したとしても、右行為は、原作品の所有権を侵害するものではない」と結論付けました。
   この最高裁判例は、著作権と所有権の権能を的確に論じています。しかも著作権が消滅した後は、当該著作物は公有財産として、その著作物は誰でも利用できるようになることとも整合します。さらには著作権者の保護と文化的所産の公正な利用との調和を図って文化の発展に寄与するという著作権法ないし著作権制度の目的にも適合的です。
   従って、筆者は、最高裁の考え方は妥当であると考えます。
   当初は、この考え方に反対する下級審裁判例もありましたが、現在の下級審はこの考え方でほぼ固まっているのではないかと思われます。
 ウ この考え方によりますと、所有権侵害はないので、XはYに対し、差し止め、損害賠償とも請求できないことになります。

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