判例・事例

株主の取締役に対する直接の損害賠償請求について

2007年7月23日 損害賠償請求


1 取締役が、その職務を行うについて悪意または重大な過失があったときは、第三者に対して損害賠償責任を負います(会社法429条1項)。
  それでは、取締役の悪意または重大な過失により、会社が損害を被り、その結果、第三者に損害が生じた場合、本条により当該取締役は直接第三者に対し損害賠償責任を負うのでしょうか。
  例えば、取締役らの悪意または重大な過失による任務懈怠によって、当該会社が業績が悪化(または倒産)するなどして株式が無価値となってしまった場合、株主は、当該取締役らに対して直接損害賠償請求をできるか問題となります。
  この点に関して、東京高判平成17年1月18日判決金判1209号10頁は、証券取引所などに上場され公開取引がなされている公開会社である株式会社の業績が取締役の過失により悪化して株価が下落するなど、全株主が平等に不利益を受けた場合、株主が取締役に対しその責任を追及するためには、特段の事情がない限り、株主代表訴訟によらなければならず、直接民法709条に基づき株主に対し損害賠償をすることを求める訴えを提起することはできない旨判示しました。
  その理由として、?会社が損害を回復すれば株主の損害も回復する関係にあること、?直接損害賠償請求できるとすれば取締役は会社及び株主に対し二重の責任を負いかねないことなどを指摘しました。

2 確かに証券取引所に上場している株式会社においては、上記裁判例が指摘するとおりかもしれません。
  しかし、小規模閉鎖会社では、所有と経営が実質的に一致していることや株式を自由に譲渡することが公開会社に比べて困難であることなどから、取締役に対する責任追及を株主代表訴訟に限ってしまうと、実効的な救済がなされない可能性があります。
  学説によっては、例外的に個別救済、すなわち取締役に対する直接の損害賠償請求を認める見解も唱えられているところですが、上記?に関して当該取締役が二重責任を負う可能性をどのようにして調整するかなど課題があります。
  もっとも、上記裁判例も「特段の事情がない限り」としており、特段の事情があれば、取締役に対する直接請求が認められる余地はあるといえます。ただし、特段の事情の有無は請求する側が主張立証する必要があります。

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