判例・事例

セクハラを理由としてされた懲戒処分としての出勤停止処分が懲戒権を濫用したものとはいえず有効であるとされた事例

2015年7月1日 セクハラ・パワハラ等に関する事例・判例


【事案の概要】

Y社は商業施設の運営などを行う株式会社。 X1(原告はこの他にもいますが今回は省略します)は、44歳の男性で、営業部サービスチームのマネージャーの職位にあった。Aは、昭和56年生まれの女性で、X1と同じ事務室において売上管理を担当していた派遣社員であった。 X1は、平成22年11月頃から平成23年12月までにわたり、Aに対して、Aが精算室において一人で勤務している際に、同人に対し、自らの不貞相手に関する性的な事柄や自らの性器、性欲等について殊更に具体的な話をする等の発言を行った。 Aは、平成23年12月退職するとともに、X1からの発言内容等をY社に対して申告した。Y社は、X1から事情を聴取の上、就業規則に基づき30日間の出勤停止処分をした。X1は、同処分の無効確認を求めて提訴。(なお、懲戒処分としての出勤停止処分の他に降格処分もしており、最高裁はこれについても有効と判断しており注目されるが、今回は省略する。) なお、Y社は、過半数を女性従業員が占め、職場におけるセクハラの防止を重要課題として位置付け、かねてからセクハラの防止等に関する研修への毎年の参加を全従業員に義務付けるなどし、禁止される行為等が列挙されたセクハラ禁止文書も作成して従業員に配布し、職場にも掲示するなど、セクハラの防止のための種々の取組を行っていた。

【原審(大阪高裁平成26年3月28日判決)の判断】

原審は、①X1が、従業員Aから明確な拒否の姿勢を示されておらず、X1の言動が許されていると誤信していたことや、②懲戒を受ける前にセクハラに対する懲戒に関するYの具体的な方針を認識する機会がなく、X1の言動についてYから事前に警告や注意等を受けていなかったことを理由として、懲戒解雇の次に重い出勤停止処分は行為の性質、態様等に照らして重きに失し、社会通念上相当とは認められず、権利の濫用として無効であると判断した。

【最高裁の(最判一小平成27年2月26日)判断】

これに対して最高裁は、X1の発言を極めて露骨で卑猥と評価したうえで、①職場におけるセクハラ行為については、被害者が内心でこれに著しい不快感や嫌悪感等を抱きながらも、職場の人間関係の悪化等を懸念して、加害者に対する抗議や抵抗ないし会社に対する被害の申告を躊躇することが少なくないこと及びX1の発言内容に照らせば、X1が、従業員Aから明確な拒否の姿勢を示されておらず、X1の言動が許されていると誤信していたことをX1の有利な事情として考慮することはできず、また、②X1は管理職としてY社のセクハラ防止のための方針や取り組みを当然に認識すべきであったといえることに加え、Aに対して1年あまりにわたり多数回のセクハラを繰り返したこと、その行為の多くが第三者のいない状況で行われており、Y社がX1の発言に対して警告や注意等を行い得る機会がなかったことからすれば、X1が懲戒を受ける前の経緯についてX1の有利な事情として考慮することはできないとし、結論として出勤停止処分を有効とした。

【留意点】

原審は、X1が、従業員Aから明確な拒否の姿勢を示されておらず、X1の言動が許されていると誤信していたこと及び懲戒を受ける前にセクハラに対する懲戒に関するYの具体的な方針を認識する機会がなく、X1の言動についてYから事前に警告や注意等を受けていなかったことを理由として出勤停止処分を無効としています。これに対して、最高裁は、これらは懲戒処分を無効とする事情としては考慮するべきでないとして出勤停止処分を有効としました。 その理由として最高裁は、X1が誤信していたということについては、X1の発言内容と、被害者が嫌悪感等を抱きながらも職場の人間関係の悪化を理由として被害者が被害の申告を躊躇することが多いことを指摘しています。ここで留意するべきなのは、被害者からの申告が困難であったことに加えて、X1の発言内容にも言及している点です。X1の発言内容は極めて露骨で卑猥であり、それ自体通常であれば不快感を覚えるような内容であったことも判断に影響していると思われます。被害者からの申告が困難であったことのみを理由として、加害者の自らの言動が許されているとの誤信を懲戒処分をする際に斟酌しないことは危険であり実務上は控えるべきでしょう。 懲戒を受ける前にセクハラに対する懲戒に関するYの具体的な方針を認識する機会がなく、X1の言動についてYから事前に警告や注意等を受けていなかったことについては、Y社にその機会がなかったことのみならず、X1が管理職にあったということ、Y社が全員出席の研修会やセクハラ禁止文書の配布等、重点的にセクハラ防止に取り組んできたということが重視されています。会社として事前の注意や警告のしようがない場合は、それを行うことなく懲戒処分ができるというように本事例を一般化して理解することは危険であり、原則は、事前の注意や警告が必要と考えておくのが安全です。

以上

セクハラ・パワハラ等に関する事例・判例に戻る

PAGE TOP