使用者の労働者に対する安全配慮義務や労働者が労働しやすい職場環境を整える義務について
2016年1月27日 その他の事例・判例
アンシス・ジャパン事件(東京地裁平成27・3・27判決)をもとに、使用者の労働者に対する安全配慮義務や労働者が労働しやすい職場環境を整える義務について検討したいと思います。
【事案の概要】
原告(以下、「X」)は、被告(以下、「Y」)に入社し、Yの技術部でインストールサポートにCと2人体制で従事していた。Cには、顧客及び技術部のエンジニアとの間でうまくコミュニケーションがとれないこと等があったため、Xは、上司であるD部長に対し、繰り返しCの状況を報告しつつその改善を求めていた。Xが技術部の全員を宛先に加えたメールでCの顧客に対する対応には問題があることを指摘して批判したところ、CはXの上記行為がパワハラに当たる行為であるとD部長に訴えた。Xは、D部長に対し、Cと協同して業務を遂行することは不可能であることなどを繰り返し訴えたが、何らの対応もなされず、結局Xは退職した。
Xは、YがXとの労働契約上の義務として負う安全配慮義務又は労働者が労働しやすい職場環境を整える義務を怠った旨を主張し、Yに対し、不法行為責任又は債務不履行責任に基づく損害賠償等を求めた。
【裁判所の判断】
裁判所はまず、使用者は、その雇用する労働者に対し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して心身の健康を損なうことがないように注意する義務を負うため、Xに対して業務上の指揮監督を行う権限を有するD部長は、Yの上記の注意義務の内容に従ってXに対する指揮監督権限を行使する義務を負うことを示した。
そして、2人体制で業務を担当する他方の同僚からパワハラで訴えられるという出来事は、客観的にみてもXに相当強い心理的負担を与えたというべきであり、X自身、Cと一緒に仕事するのは精神的にも非常に苦痛であり不可能である旨繰り返しD部長らに訴えていたのであるから、Yは、Xの心理的負荷等が過度に蓄積しないように適切な対応をとるべきであり、具体的には、X又はCを配転して分離するか、又は両人の業務上の関わりを極力少なくするなどする必要があったが、D部長は、このような対応をとっていなかった以上、D部長がXに対し、その心理的負荷が過度に蓄積することがないよう注意して指揮監督権限を行使していたとはいえないとして、Yは、Xに対して債務不履行責任又は不法行為責任に基づく損害賠償義務を負うと判断した。
【実務上の留意点】
使用者の労働者に対する、「働きやすい良好な職場環境を維持する義務(職場環境配慮義務)」は、裁判所でも認められているところです。
具体的には、セクハラ行為の発生を予見できたにもかかわらず十分な予防措置をとらなかった場合や上司がいじめ・嫌がらせにあたる言動を繰り返した場合などに、職場環境配慮義務や安全配慮義務違反が肯定されています。使用者に、その従業員たる上司が優越的立場を利用してパワーハラスメントなどの行為をしないよう防止する義務を認めた裁判例も存在します。
「労働者にとって働きやすい職場」を目指すことが、良好な労使関係の構築の第一歩と言えるでしょう。弊事務所では、良好な職場環境づくりの応援をさせていただきますので、お気軽にご相談ください。