判例・事例

職務遂行能力の不足を理由とした解雇の有効性

2015年6月2日 解雇に関する事例・判例


会社と労働者との間のトラブルにおいて、昔も今も解雇は主要な問題のひとつです。

厚労省のプレスリリース(平成27年6月12日付)によれば、平成26年度の労働局、労働基準監督署に寄せられた個別労働紛争の相談内容の中で、解雇に関する相談件数は「いじめ・嫌がらせ」に次ぐ2位、全体の11.4パーセントを占めるとのことです。その相談件数は減少傾向にありますが、なおも年間約4万件と高い水準で推移しています。

一般に解雇事由には、労働者の規律違反や整理解雇などいくつかの種類がありますが、今回は、労働者の職務遂行能力不足を理由とした解雇の有効性についての裁判例をご紹介いたします。

 

1 トライコー事件(東京地裁平成26年1月30日判決)

⑴ 事案の概要

被告Y社は、外国企業に対し、日本の事業所における記帳・経理業務の代行等のアウトソーシングサービスを提供することを主たる業務とする会社である。原告Xは、日商簿記1級、税理士事務所等における約8年半の記帳・経理業務の実務経験を有することを評価され、平成20年9月、Y社に雇用された。

Xは、Y社の顧客の記帳・経理業務の代行サービスを行う部署に配置され、同業務に従事していたところ、月次決算結果等の提出期限を度々徒過し、また、記載内容に誤りがあることも度々であった。

Y社は、Xに対し、平成24年2月13日、退職勧奨を行ったが、Xから退職届の提出がなかったため、同年3月31日、職務遂行能力の不足、社員としての適格性欠如等を理由として解雇する旨意思表示をした。

⑵ 裁判所の判断

裁判所は、まず、Xが記帳・経理業務を専門に担当するコンサルタントとしてY社に雇用されたものであるにもかかわらず、正確な会計書類を期限までに提出する等の職務を懈怠していたと認定しました。そして、Xは、Y社から「職務懈怠が明らかになる都度、注意・指導をされながら、その職務遂行状況に改善がみられなかった」のであり、Xは職務遂行能力を十分に有していなかったと言わざるを得ない、としました(解雇有効)。

 

2 実務上の留意点

労働者の職務遂行能力の不足、いわゆるローパフォーマーに対する解雇に関しては、当該労働者の職務遂行状況、これに対する会社・上司からの注意指導の内容、労働者の改善の状況等を客観的な資料に基づいて立証することができるか、という点がひとつ目のポイントとなります。本件裁判例では、顧客からのクレームや、上司からの注意指導、これに対するXの回答がメールによってやりとりされていたため、会社側の立証が成功した事例といえるでしょう。この点、ご相談の中で後日紛争となることが予想されるケースでは、注意指導や、これに対する労働者の回答は、文書で残しておくことをおすすめしています。作成者の署名押印のある文書の方が証拠としての信用性はより高いといえるからです。

次にポイントとなるのが、当該労働者の能力不足の程度です。本件裁判例では、Xが専門性を重視されて雇用されていたこと、業務遂行状況の改善が見込めないことが認定されたために、解雇が有効とされています。

このように、職務遂行能力の不足を理由とする解雇については、会社としても客観的資料の収集・保存、適切な注意指導の実施等、十分な事前の対応が必要となりますので、もし問題となり得るケースが生じた場合、お早めにご相談いただければと存じます。

 

PAGE TOP