判例・事例

未払い残業代について(その4)

2016年3月6日 賃金に関する事例・判例


4.ある住宅設備業者(営業職の事業場外労働の所定労働時間みなしと定額の残業手当の定めの有効性が問題となった例)

(事件の内容)

この会社は、インフラにかかわる住宅設備工事の施工を業としていたが、営業職について、事業場外労働の所定労働時間みなし(労基法38条の2)が適用できるか、営業手当が時間外労働に対する割増賃金としての性格を持っているといえるかが問題となった。

(事業場外労働のみなし労働時間について)

営業職について、一人で事業場外で営業活動をすることも多いため、その具体的な労働時間を把握することができず、労働時間を算定し難いような場合には、所定労働時間働いたものとみなすことは、世上よく行われているが、法律上は、具体的な労働時間の把握算定が本当に困難といえるのか問題となる場合が多い。

携帯電話を持たせて適宜報告をさせたり、営業日報を細かく書かせる例もあるが、そのように事業場外での就労時間を具体的に把握できる場合は、労基法38条の2の要件を満たさず、労働時間を把握、管理して時間外労働が発生している場合には割増賃金を支払わねばならないとする裁判例が実は多い。

 阪急トラベルサポート(派遣添乗員第2)事件 最高裁平成26年1月24日判決は、海外旅行の派遣添乗員について、あらかじめ定められた旅行日程に従って旅程管理を行うことが義務付けられ、日程に変更が生じた場合には報告が義務付けられ、必要な場合には携帯電話で連絡をとり指示を受けることとされていた等の事情があり、事業場外労働のみなし労働時間を認めなかった。

また、仮に事業場外労働のみなし労働時間が認められたとしても、終業時刻後に事業場に戻って、事業場で日報を書いたり、翌日の準備を行う場合などは、それが事業場外労働に付随して、ごく短時間に行われるような場合でない限りは、別途事業場内の労働時間を把握し算定しなければならないとされている。

(解決)

私が担当した事件は、社内に労組が結成され、地域労組と団体交渉をする中で解決をしたが、この労組の交渉担当者は、こちらの事情、主張にもそれなりに理解を示し、事業場外で営業活動をしている時間について、それを所定労働時間(8時間)働いたものとみなすことについては大きな対立とはならなかったが、事務所に戻って終業時刻後に日報作成等をしている時間に対する残業代支払が問題となった。

会社としては、営業手当が、固定残業代にあたると主張したが、ある時期までは、それが賃金規定上明確にはされておらず、これは不利な事情にならざるを得なかった。

結論的には、社員向けの連絡文等を根拠に、固定残業代でまかなえない残業時間部分についてのみ精算をすることで合意できたが、営業手当、職務手当など、その趣旨を明確にしないであいまいなまま手当てを支給していると、仮に裁判になった場合でも、残業代を支払ったとはされず、その手当も含めて残業代算定の基礎賃金に含めて計算をされてしまうので、注意が必要だ。(固定残業代については、ホームページの「事例・判例」の記事を参照されたい。)

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