判例・事例

育児短時間勤務制度の利用と労働者の定期昇給

2016年4月1日 賃金に関する事例・判例


1.育児介護休業法23条の2は、育児短時間勤務を利用したことを理由とする不利益取扱いを禁止している。同法は、強行規定とされているため、不利益取扱いにあたる法律行為は、無効とされ、不法行為による損害賠償責任の対象になるとされている。
例外的に、その不利益取扱いをしても同条に違反しないと認められる特段の事情を使用者が立証すれば違法とされないが、その立証は極めてハードルが高い。

2.全国重症心身障害児(者)を守る会事件(東京地裁平成27年10月2日判決)
この事件の原告らは、育児短時間勤務制度を利用して1日6時間勤務を継続していた。原告らは、時間短縮した1日2時間分の賃金減額をされていたが、この点は、ノーワーク・ノーペイ原則の範囲内であり、違法な不利益取扱いには当たらない。
しかし、本件では、それにとどまらず、定期昇給に際して、人事評価 による昇給号給をそのまま適用するのではなく、勤務時間の短縮に比例して抑制した昇給号給としたことが問題とされた。
被告は、原告らの業務は臨床経験により能力、キャリアが上昇することが予定されており、勤務時間を昇給に反映させることには合理性があると主張していた。

3.判決
判決は、本件昇給の抑制は、労働時間短縮による賃金減額のほかに、本来与えられる昇給の利益を不十分にしか与えないという不利益取扱いであり、例外的に上記育児介護休業法に違反しないと認められる合理的な特段の事情も本件では認められないので違法とした。
注意しなければならないのは、本件判決も、勤務時間が短いことを昇給時の人事評価において考慮すること自体を違法とした訳ではないことだ。
本判決は、本件昇給制度が、短時間勤務であることを昇給時の人事評価において考慮するとともに、それを更に時間短縮に比例して抑制していることが短時間勤務を二重に考慮しており、そのことに合理性がないとしている。
被告の主張しているように、臨床経験により能力、キャリアが上昇し、勤務時間を昇給に反映させることに合理性が認められるのであれば、勤務時間を考慮した昇給を決定することに合理性があり、不利益な取扱いとはされなかっただろう。

4.育児介護休業法と不利益取扱い
育児短時間勤務に限らず、育児休業や介護休業をした労働者に対する不利益取扱いが違法とされている。少子高齢化が一層進む中で、こうした立法の必要性はよく理解できるのだが、他の社員と協力しながら、公正なマネージメントを行うことは容易なことではない。
法の趣旨を理解しながら適切な人事を行うようにしたい。

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