判例・事例

正社員のみに無事故手当等一部の手当を支払うことは違法~ハマキョウレックス事件(控訴審判決)のご紹介~

2016年11月2日 賃金に関する事例・判例


1 はじめに
 本年7月の事務所通信において、労働契約法第20条(期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止)に関する長澤運輸事件(同じ業務で定年後再雇用、賃金差別は違法)をご紹介しましたが、最近また同条に関する新しい裁判例(ハマキョウレックス事件〔控訴審判決〕)が出ましたので、今回は同裁判例をご紹介したいと思います。(本年7月6日の法律実務セミナーでご紹介した地裁判決と同じ事案の控訴審判決です。)

2 事案の概要
 一般貨物自動車運送業等を営むY社には、期間の定めのない労働契約を締結した正社員と、期間の定めのある労働契約を締結した契約社員がいます。
Y社の就業規則上、正社員と契約社員との間には、賃金等に関して、以下の相違があります。

      ①正社員  / ②契約社員
基本給   :①月給制      / ②時給制
無事故手当 :①該当者には1万円 / ②支給なし
作業手当  :①該当者には1万円 / ②支給なし
給食手当  :①3500円 / ②支給なし
住宅手当  :①2万円 / ②支給なし
皆勤手当  :①該当者には1万円 / ②支給なし
家族手当  :①あり / ②支給なし
通勤手当  :①通勤方法の別・通勤距離に応じて支給上限5万円 / ②上限3000円
定期昇給  :①原則あり / ②原則なし
賞与    :①原則支給あり / ②原則支給なし
退職金   :①原則支給あり / ②原則支給なし

Y社の契約社員であるX(ドライバー)は、正社員とXの労働契約における労働条件とを比較して不合理な相違のある労働条件を定めたXの労働条件部分は公序良俗又は労働契約法20条に反して無効であるから、XはYとの労働契約上、正社員と同一の権利があると主張して、Y社に対し、かかる権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、①主位的にY社との労働契約に基づき、正社員が通常受給すべき賃金との差額について、②予備的に不法行為に基づき、同差額分と同様の賃金の支払いを求めました。

3 裁判所の判断

(1)裁判所は、「Y社の正社員と契約社員との間には、…広域移動や人材登用の可能性といった人材活用の仕組みの有無に基づく相違が存するのであるから、…労働条件の相違が同条にいう「不合理と認められるもの」に当たるか否かについて判断するに当たっては、…労働契約法20条所定の考慮事情(注:①職務の内容、②当該職務の内容及び配置の変更の範囲③その他の事情)を踏まえて、個々の労働条件ごとに慎重に検討しなければならない。」と述べた上で、各手当の目的・性質から、不合理性を個別に判断し、以下のとおり判断しました。
ア 「不合理と認められるもの」に該当:無事故手当、作業手当、給食手当、通勤手当
イ 上記に該当しない:住宅手当、皆勤手当
ウ 判断なし:家族手当、一時金の支給、定期昇給及び退職金の支給(Xの請求の仕方が当該判断を必要としないものだったため)

(2)不合理と判断されたものの中から、無事故手当通勤手当に関する判断をご紹介したいと思います。
ア 無事故手当
  …優良ドライバーの育成や安全な輸送による顧客の信頼の獲得といった目的は、正社員の人材活用の仕組みとは直接の関連性を有するものではなく、むしろ、正社員のドライバー及び契約社員のドライバーの両者に対して要請されるべきものである。
  そうすると、正社員のドライバーに対してのみ無事故手当月額1万円を支給し、契約社員のドライバーに対しては同手当を支給しないことは、期間の定めがあることを理由とする相違であり、労働契約法20条にいう「不合理と認められるもの」に当たると認めるのが相当である。
イ 通勤手当
  …通勤手当は、Y社に勤務する労働者が通勤のために要した交通費等の全額又は一部を補填する性質のものであり、通勤手当のかかる性質上、本来は職務の内容や当該職務の内容及び変更の範囲とは無関係に支給されるものである。
  …そうすると、…Xと同じ交通用具利用者で同じ通勤距離の正社員に対しては通勤手当月額5000円を支給し、Xには通勤手当月額3000円を支給することは期間の定めがあることを理由とする相違というほかなく、同条にいう「不合理と認められるもの」に当たると認めるのが相当である。

4 コメント
(1)本判決は、定年後再雇用の事案ではなく「契約社員」の事案である点、および労働契約法第20条の考慮要素である「職務の内容及び配置の変更の範囲」が異なると認定されている点で長澤運輸事件とは異なります。通常、有期の方については、正社員と「職務の内容及び配置の変更の範囲」を変えている場合が多いと思いますので、その意味で、本判決の方が長澤運輸事件よりも影響の及ぶ範囲が広いと思われます。
(2)本判決のように、「各手当の目的・性質から、不合理性を個別に判断」するという手法が今後日本においても確立するかは不明ですが、有力な学説においても同手法によることが提唱されていること、および本判決が出たことを考えると、各手当の目的・性質から、なぜ当該手当につき、正社員には支給するが、契約社員等の有期契約労働者には支給しないのか(あるいは支給基準を変えるのか)を説明できるようにしておくのが望ましいでしょう。

以上

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