判例・事例

契約社員にも退職金を支給しなければならないか~労働契約法20条~

2019年6月6日 賃金に関する事例・判例


第1 はじめに
 先月号に引き続き、今月号では長期間勤務を継続した契約社員に対して退職金を一切支給しないことが労契法20条違反とされた東京高裁判決をご紹介したいと思います。

第2 裁判例の紹介
1 事案の概要
 Y社の契約社員B(有期)として駅構内売店での販売業務に従事している(いた)X1ら4名が、正社員のうち同売店業務に従事している者との間で、下記①~⑥に相違があることは、労契法20条に違反するとして、差額相当損害金等の支払いを求めた事案。
 正社員の中にも専ら売店業務に従事している者がいたものの、過去の経緯があるごく一部の者(関連会社再編前に売店業務を担っていた互助会出身者か、契約社員Bから〔同Aを経て〕正社員に登用された者)にほぼ限られていた点が、本件の特徴です。
原審では、⑥早出残業手当についてのみ、同条違反が認められていました。

2 裁判所(東京高裁)の判断
(1)裁判所は、①本給及び資格手当並びに③賞与については不合理性を否定し、②住宅手当、④退職金(一部)、⑤褒賞及び⑥早出残業手当については不合理性を肯定し、同条違反を認めました。
 今回は、③賞与及び④退職金に関する判断に関わる部分について、ご紹介したいと思います。

(2)
ア 比較対象者
  比較対象とする無期契約労働者を具体的にどの範囲のものにするかについては、不合理と 認められると主張する有期契約労働者(X1ら)において特定して主張すべきものであり、裁判所は、その主張に沿って不合理性を判断すれば足りる。

イ 職務内容と変更の範囲の相違
 売店業務に従事している正社員(以下「正社員」と省略します)と契約社員Bとの間には、職務の内容(代務業務・エリアマネージャー業務に従事することがあり得るか等)及び変更の範囲(売店業務以外の業務への配置転換の可能性)に相違がある。

ウ 賞与(正社員の平均支給実績は本給2か月分+17万6000円、契約社員Bは12万円)
・長期雇用を前提とする正社員に対し賞与の支給を手厚くすることにより、有為な人材の獲得・定着を図るという人事施策上の目的にも一定の合理性が認められる。
・上記平均支給実績に照らすと、主として、対象期間中の労務の対価の後払いの性格や上記人事施策上の目的を踏まえた従業員の意欲向上策等の性格を帯びているとみるのが相当である。
・正社員と契約社員Bの間には職務内容及び変更の範囲に相違があること等のほか、
年間賃金のうち賞与として支払う部分を設けるか、いかなる割合を賞与とするかは使用者に一定の裁量が認められるところ、契約社員Bは、1年ごとに契約が更新される有期であり、時給制を原則としていることから、年間賃金のうち賞与部分に大幅な労務の対価の後払いを予定すべきであるということはできないし、賞与はY社の業績などを踏まえて労使の団体交渉により支給内容が決定されるものであり、支給可能な賃金総額の配分という制約もあること、Y社においては、近年は多数の一般売店がコンビニ型売店に転換され、経費の削減が求められていることがうかがわれること、(比較対象の)正社員については、過去のやむを得ない経緯から他の正社員と同一に遇されていることにも理由があることも考慮すれば、契約社員Bに対する賞与の支給額が正社員と比較して相当低額に抑えられていることは否定できないものの、その相違が直ちに不合理であると評価することはできない。

エ 退職金(正社員には退職金が支給されるが、契約社員Bには退職金制度がない)
・一般論として、長期雇用を前提とした無期に対する福利厚生を手厚くし、有為な人材の確保・定着を図るなどの目的をもってこのような制度設計をすること自体が、人事施策上一概に不合理であるということはできない。
・契約社員Bは、1年ごとに契約が更新される有期であるから、賃金の後払いが予定されているということはできないが、他方で、㋐有期は原則として更新され、定年が65歳と定められており、実際にもX2及びX3は定年まで10年前後の長期間にわたって勤務していたこと、㋑同じく売店業務に従事している契約社員Aは、職種限定社員に名称変更された際に無期になるとともに、退職金制度が設けられたことを考慮すれば、少なくとも長年の勤務に対する功労報償の性格を有する部分に係る退職金(正社員と同一の基準に基づいて算定した額の少なくとも4分の1)すら一切支給しないことについては不合理といわざるを得ない。
→上記相違は、上記2名のような長期間勤務を継続した契約社員Bにも全く退職金の支給を認めないという点において、不合理と認められるものに当たる。

                                       以 上

PAGE TOP