判例・事例

いわゆる「問題社員」にどう対応するか(2)

2016年2月1日 労働災害に関する事例・判例


4 本当に病気の疑いがある社員に対してはどうするか

自己愛型人格障害、境界性人格障害と思われる従業員に対しては、以上のような対応をすることとなるが、難しいのは、精神障害に罹患していると思われる場合だ。人格障害なのか治療の必要(可能)な精神障害なのか、区別が難しい場合もあるし、両方の場合もある。

ただ、その区別をするのは、医師の診察を拒否する社員も多く、素人には判別困難だ。

日本ヒューレットパッカード事件最高裁平成24年4月27日判決は、精神的な不調のために欠勤を続けていると認められる労働者に対しては、精神科医による健康診断を実施などしたうえで、診断結果等に応じて、必要な場合には治療を勧めた上で休職処分等の処分を検討し、その後の経過を見るなどの対応を採るべきとしているが、もっともだと思う。

しかし、専門医の診察を受けるよう指示をしても、それを拒否したり、診察を受けて診断書を提出しても、その内容に疑問を抱かざるを得ない場合もある。いわゆる人格障害が疑われるケースでは残念ながら、そうしたことがあるのが現実だ。

上記、日本ヒューレットパッカード事件では、最高裁判決後、原告が就労を求めたところ、依然として理解の不能なブログ書き込みや被害妄想的な言動が見られるため、大学病院の医師の診察を求めたが、原告はそれを拒否し、主治医の診断書(精神的な異常は認められず、何らかの精神疾患のサインや病的な人格的偏りも現時点では認められなかったとし、現状では、就労に関しては精神面でも身体面でも問題はないとしていた)を提出して就労を求めた。会社の方は、その内容に疑問を持ち、産業医の意見書(原告は妄想性障害であり、会社の標準的作業環境の下で就労すること(新たに在宅勤務の制度を作る場合を含む)は、原告本人および周囲の社員双方の安全配慮の観点から困難であり、原告を配転して就労させることができる現実的可能性のある仕事はないとするもの)に基づき、原告に休職命令を発し、休職期間満了により退職としている。原告は、その休職命令及び自然退職扱いは無効であるとして再び裁判を提起したが、東京地裁平成27年5月28日判決は、産業医の意見書の方が信用できるとして休職命令、自然退職を有効とした(この判決には、主治医と産業医の意見書の評価、就業規則の規定内容など注目すべき点が多い)。

5 大切なこと

このように、社員本人が精神疾患に罹患していることが疑われる場合には、特別の配慮、注意が必要なのだが、人格障害が疑われる場合も含め、重要なのは、公正な立場で見て、使用者として行うべき配慮措置、注意、教育・指導を尽くした上で、労働契約の本旨に従った労務の提供が期待できない(他の社員の業務の遂行に支障が生じていることを含む)状態といえるかどうか(そのことを裏付ける証拠があるか)ということだ。適正な手続きを一切踏むことなく、問題行動をとる社員を排除しようとしても、トラブルになることは避けられないし、裁判になれば、敗訴する。

(問題社員の対応事例をもっと知りたい方は、当事務所HPの「判例・事例紹介」を参照してほしい。)

6 メンタル不調社員について

ここまで、いわゆる「問題」社員について書いてきたが、社内には、メンタルヘルス不調で真剣に悩んだり、不安になっている社員も多い。それが、業務に起因する場合は、会社に労災の責任があり、私病にあたる場合でも、職場復帰を真摯に願っている社員を適切に援助する責任が企業にはある。もちろん、企業の規模や職種、本人の経験や能力等により援助できる内容、程度も異なる。

しかし、私の経験でも、企業の適切な配慮によって徐々に職場復帰を果たし、現在では元気に会社の貴重な戦力になっている社員もいる。

現場で社員の問題行動やメンタル不調に対して、どう対処してよいか悩んでおられる上司、経営者は、少なくないと思う。どうか一人で悩まないで、相談してほしい。

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