判例・事例

歓送迎会後の事故が労災と認められた事例(最高裁第二小法廷平成28年7月8日判決)

2016年7月28日 労働災害に関する事例・判例


1 はじめに
 労災の要件である「業務上」の災害といえるためには、当該事故が業務遂行中に発生したこと、言い換えれば、事業主の支配下にある状態において災害が発生したものであるといえなくてはなりません。これまでの裁判実務では、職場の懇親会において従業員が災害を被った場合、ほとんどの事例で業務遂行性を否定してきました。ところが、平成28年7月8日、最高裁は、会社の歓送迎会後に従業員が交通事故に遭い死亡した事案で、労災を認めるという実務上注目すべき判断を下しましたので、以下ご紹介します。

2 事案の概要
 亡くなったAは、親会社から子会社Bに出向し、営業企画等の業務に従事していた。
平成22年12月6日、B社の社長業務を代行していた生産部長Cは、中国人研修生の歓送迎会を企画し、全従業員に声をかけたところ、Aは提出期限を翌々日に控えた社長宛の資料を作成しなければならないとして、一旦は参加を拒んだ。しかし、部長Cは顔を出せるなら出してほしい旨Aに打診した上、さらに歓送迎会終了後には自分がAの資料作成を手伝うと伝えた。
同月7日、Aは歓送迎会開始後も会社に残り資料作成を続けていたが、作成作業を一時中断し、1時間30分遅れで飲食店に到着し、歓送迎会に参加した。歓送迎会終了後、Aは中国人留学生をその居住するアパートまで送った上で会社に戻るため、自動車を運転していたが、アパートに向かう途中、対向車線を進行中の大型貨物自動車と衝突する交通事故に遭い、同日死亡した。

3 判決の概要
 1審、2審では、本件歓送迎会は親睦を深めるための私的な会合であるなどとしてAの死亡は業務上の事由にあたらないとされ、労災が認められなかったところ、遺族(Aの妻)が上告した。最高裁は、Aは部長Cの意向で歓送迎会に参加しないわけにはいかない状況に置かれ、歓送迎会終了後に業務再開のため会社に戻ることを余儀なくされたこと、歓送迎会が部長Cの発案で、費用は会社の経費から支払われていたこと、もともと中国人研修生をアパートまで送ることは部長Cにより行われることが予定されていたものであり、Aが代わってこれを行ったことは会社から要請された一連の行動の範囲内のものであったといえること等を考慮し、本件事故が業務上の事由による災害であることを認めた。

4 実務上の留意点
 従来は、社外の懇親会等で従業員が被災した事案について、懇親会への参加が強制されていたかどうかという視点を中心に画一的に業務遂行性が判断される傾向にあり、結果的に労災を認めないケースが多くありました。しかし、本判決は当該事案の事情をより個別具体的に検討する方向を示したものであると考えられます。

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