判例・事例

過労自殺

2012年4月28日 労働災害に関する事例・判例


 最近、過労自殺に関する報道が続いた。北海道音更町農業協同組合に対して、釧路地裁帯広支部は、1億4000万円の損害賠償を命じた。33歳の男性係長 が自殺をしたのは、業務による心理的負荷によりうつ病を発症したのが原因として、業務軽減措置を怠ったのは農協の安全配慮義務違反に当たるとしたものだ。
 自動車大手のマツダでは、男性社員(25歳)が自殺したのは過労によりうつ病を発症したのが原因として広島中央労基署が労災認定をした。現在両親は、会社の安全配慮義務違反を理由に1億1000万円の損害賠償請求の民事訴訟を提起している。

 自殺が、業務に起因するものとされた場合は、労災の認定と、民事の損害賠償がともに問題となるが、上記の例のように当事者が若いとその損害賠償額は極め て多額になる。このようなケースでは、被災者、ご遺族にお気の毒なだけでなく、場合によっては、企業経営に大きなダメージを与える場合もある。逸失利益 (労災基準額を超える部分)や慰謝料など、労災給付だけでは賄えない部分については、民事の損害賠償請求訴訟が起こされることも稀ではない。

 労災の認定基準と民事の損害賠償責任が認められる基準、要件及び効果は異なる。いずれにせよ、過労自殺などが発生しないように、職場の労働時間管理やメンタルヘルス対策、場合によっては軽減業務への配置転換など事前の予防策を徹底したい。
 裁量労働制などを導入している企業も多いと思われるが、たとえ裁量労働制を採用してみなし労働時間を導入していても、労働者に対する健康配慮義務は課されているので注意が必要だ。
 また、万一、不幸にも労災が疑われるような自殺、事故が発生した場合には、ご遺族らに対する対応は、慎重かつ誠意をもってあたりたい。これまでの過労自 殺裁判をみると、担当社員や会社の不適切な対応が理由の一つになって、いわば怨念の裁判に発展してしまった例も見られる。会社の言い分ももちろんあろう。 ただ、結果が重大なだけに、慎重に対処したい。民間の保険に加入しておくのも方法の一つだ。

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