判例・事例

同じ業務で定年後再雇用、賃金差別は違法 ~長澤運輸事件のご紹介~②

2016年6月20日 労働条件に関する事例・判例


3 裁判所の判断

(1)そもそも期間の定めがあることによる相違か否か
Y社 
“定年後再雇用であることを理由に相違を設けているのであって、期間の定めがあることを理由として労働条件の相違を設けているわけではない。”
裁判所
“当該労働条件の相違が、期間の定めの有無に関連して生じたものであれば足りる。”
“本件では、…賃金の定めについて地位の区別に基づく定型的な労働条件の相違があると認められるのであるから、当該労働条件の相違(本件相違)が期間の定めの有無に関連して生じたものであることは明らか/strong>である。”
(2)不合理な相違か否か

裁判所
“有期契約労働者の職務の内容(①)並びに当該職務の内容及び配置の変更の範囲(②)が無期契約労働者と同一であるにもかかわらず、労働者にとって重要な労働条件である賃金の額について、有期契約労働者と無期契約労働者との間に相違を設けることは、その相違の程度にかかわらず、これを正当と解すべき特段の事情がない限り、不合理であるとの評価を免れない。”
“本件において、嘱託社員であるXらと正社員との間には、業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度に差異がなく、Y社が業務の都合により勤務場所や業務の内容を変更することがある点でも両者の間に差異はないから、有期契約労働者であるXらの職務の内容(上記①)並びに当該職務の内容及び配置の変更の範囲(上記②)は、無期契約労働者である正社員と同一であると認められる。また、Xらの職務内容に照らし、定年の前後においてその職務遂行能力についての有意な差が生じているとは考えにくく、…証拠もないから、職務の内容(上記①)に準ずるような事情の相違もない。そうすると、本件相違は、これを正当と解すべき特段の事情がない限り、不合理なものとの評価を免れないことになる。”
(3)特段の事情の有無

ア 事情1:本件有期労働契約は高年齢者雇用安定法により義務付けられている高年齢者雇用確保措置として締結された労働契約である
 裁判所 
“企業において、賃金コストの無制限な増大を回避しつつ定年到達者の雇用を確保するため、定年後継続雇用者の賃金を定年前から引き下げることそれ自体には合理性が認めら
れるものであるが、Y社においてその財務状況ないし経営状況上合理的と認められるような賃金コスト圧縮の必要性があったわけでもない状況の下で、しかも、定年後再雇用者を定年前と全く同じ立場で同じ業務に従事させつつ、その賃金水準を新規採用の正社員よりも低く設定することにより、定年後再雇用制度を賃金コスト圧縮の手段として用いる ことまでもが正当であると解することはできないものといわざるを得ない。
→本件における事実関係のもとでは、事情1をもって特段の事情があると認めることはできない。
イ 事情2 “Y社の再雇用制度は、高年齢者雇用安定法の改正の目的(年金の雇用の接続を図る)に見合うものであった”とY社は主張
 裁判所
“Y
社の再雇用制度が年金と雇用の接続という点において合理性を有していたものであったとしても、そのことから直ちに、嘱託社員を正社員と同じ業務に従事させながらその賃金水準だけを引き下げることに合理性があるということはできない。”

ウ 事情3 “Y社は、嘱託社員の労働条件について、本件組合との労使協議を重ね、その結果を踏まえて賃金水準の改善を図り、決定してきたものである“とY社は主張
 裁判所

当該労働条件の改善は、いずれも、Y社と本件組合とが合意したものではなく、Y社が団体交渉において本件組合の主張・意見を聞いた後に独自に決定して本件組合に通知したものである。また、本件組合は、定年後再雇用者の賃金水準について実質的な交渉を行うために、現状と異なる賃金引下げ率による資産や経営資料の提示等を繰り返し求めてきたが、Y社はこれらの要求に一切応じていない。そして、Y社と本件組合との間で、定年後再雇用者の賃金水準等の労働条件に関する実質的かつ具体的な協議が行われたと認めるに足りる的確な証拠はない。
  これらの事情に照らすと、Y社が本件組合の主張・意見を聞いて一定の労働条件の改善を実施したことをもって、本件相違を正当と解すべき特段の事情に当たるものとみることはできないというべきである。
                  ↓
結論:本件において特段の事情は認められず、本件相違は労働契約法20条に違反する

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