判例・事例

働き方改革関連法の改正(平成30年6月29日に成立)④

2018年10月3日 労働条件に関する事例・判例


はじめに
前回前々回では、働き方改革関連法のうち、「長時間労働の是正」を目的とする改正の概要をご紹介しました。今回は、「雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保」のための改正のうち、正規雇用労働者と短時間労働者・有期雇用労働者との不合理な待遇差を解消するための規定の整備に関し、ご紹介したいと思います。

1 大きな枠組み
これまで、正規雇用労働者(正社員)と短時間労働者との待遇差についてはパートタイム労働法8条・9条が、正規雇用労働者と有期雇用労働者との待遇差については労働契約法20条が、というように別々に規定されていましたが、今回の改正で、労働契約法20条は削除され、パートタイム労働法に有期雇用労働者に関する規律も統合されることとなりました(短時間・有期雇用労働法。以下、「法」といいます)。
そして、
(1)均等原則(法9条)
①職務の内容(業務の内容及びその業務に伴う責任の範囲)と②職務の内容・配置の変更の範囲が、いずれも通常の労働者(≒正規雇用労働者)と同じ短時間労働者及び有期雇用労働者については、短時間・有期雇用であることを理由として、待遇について差別的な取扱いをしてはならない(=通常の労働者と同じ待遇としなければならない)という(正規雇用労働者との)均等待遇が、
(2)均衡原則(法8条)
それ以外の短時間労働者及び有期労働者の待遇についても、(通常の労働者の待遇との間に)上記①、②および③その他の事情のうち、当該待遇の性質・目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならないという(正規雇用労働者との)均衡待遇(≒上記考慮要素にかかる相違を踏まえてバランスのとれた待遇とすること)が、
それぞれ求められることとなりました。

2 ポイント
今回の改正のポイントは、
 第一に、①・②がいずれも正社員と同じ有期雇用労働者についても、正社員と同じ待遇が求められることとなった点です。そのため、このような有期契約労働者に対し、有期だからという理由で、例えば(正社員には支給している)賞与を支給しない、あるいは正社員よりも低い金額とすることは法9条違反となります。
 第二に、「基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて」と明記され、個々の待遇(賃金については賃金項目)ごとに均等待遇・均衡待遇が求められることが明確にされました。そのため、例えば、法8条につき、賃金総額が正社員の〇割だから問題なしというおおざっぱな判断にはならないことに注意が必要です。
 第三に、法8条の「不合理と認められる相違」か否かの考慮要素に関し、①、②、③「のうち、当該待遇の性質・目的に照らして適切と認められるもの」との限定が付され、当該待遇の性質・目的により考慮要素が異なることが明確にされました。そのため、例えば手当については、各手当ごとに考慮要素が異なる結果結論が異なり得ますし、また同じ名称の手当であっても各企業ごとにその性質・目的は異なり得ることから、同様に結論が異なり得ることに留意が必要です。

3 違反の場合の効果

 法8条及び法9条に違反する待遇については無効となり、不法行為に基づく損害賠償の対象となります。また、労働契約法20条時代は行政の助言、指導、勧告の対象ではありませんでしたが、パートタイム労働法に組み込まれたことにより、これらの対象となりました。

4 施行時期

 平成32年4月1日。ただし、中小企業への短時間・有期雇用労働法の適用は平成33年4月1日(それまでは従前どおり)とされています。

5 指針
 平成28年12月20日付で「同一労働同一賃金ガイドライン案」が出されていましたが、今回の法改正を受け、同案に、改正内容、附帯決議、本年6月1日に出された長澤運輸事件・最高裁判決の内容等を踏まえた追加・修正を加えたものが、法8条及び9条部分にかかる指針のたたき台として公表されました 。指針の内容の確定後は、それを踏まえた対応が必要となります。

最後に
当事務所では、本年11月28日(水)午後1時30分~午後3時30分に、働き方関連改革法に関するセミナーを開催することを予定しております。中小企業にとっても非常に重大な影響のある法改正だと思いますので、ぜひ皆様ご参加いただけますと幸甚です。

以上

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