判例・事例

使用者による年休5日の時季指定が義務化されます

2019年2月5日 労働条件に関する事例・判例


1 時季指定義務の概要

労働基準法が改正され、今年(平成31年)4月1日から、使用者の年休(年次有給休暇)5日の時季指定義務が導入されることになりました。
ポイントは、以下のとおりです。

①労働基準法における年休の付与日数が10日以上である労働者を対象に、年休の日数のうち年5日については、使用者が時季指定しなければならない(時季指定義務)。
ただし、労働者が時季指定した場合や計画的付与がなされた場合、あるいはその両方が行われた場合には、それらの日数の合計を年5日から差し引いた日数について使用者に義務づけるものとし、それらの日数の合計が年5日以上に達したときは、使用者は時季指定の義務から解放される(例えば、労働者が自ら年休2日を取得し、それとは別に計画年休1日を付与した場合は、使用者は2日を時季指定すればよい)。
②時季指定は、各労働者ごとに、年休を付与した日(「基準日」といいます。)から1年以内に時季を指定して与える必要がある。
③使用者は時季指定を行うに当たっては、ⅰ年休権を有する労働者に対して時季に関する意見を聴き、ⅱ時季に関する労働者の意思を尊重するよう努める(努力義務)。
④使用者は、年次有給休暇管理簿を作成し、3年間保存しなければならない。
⑤時季指定義務に違反をした場合には30万円以下の罰金。
⑥使用者による時季指定を実施する場合には、時季指定の対象となる労働者の範囲、時季指定の方法等を就業規則に記載しておく必要がある。

2 注意点

以下の点に注意してください。
⑴時季指定義務の対象となる労働者について
時季指定義務の対象となる「有給休暇の日数が10労働日以上である労働者」(労働基準法39条7項)は、基準日に付与される年休の日数が10日以上の意味であり、その日数に前年度からの繰越分は含みません。法定外年休も同様にその日数には含みません。

⑵半日単位、時間単位の時季指定について
時季指定を半日単位で行うことができます。この場合、日数は0.5日と取扱われます。但し、時間単位年休で時季指定をすることはできません。

⑶繰越分の年休の取得、時季指定について。特別休暇(法定外年休)の取扱いについて。
労働者が、(基準日に付与された年休に先立ち)繰越分の年休を取得した場合には、その日数分を使用者が時季指定すべき5日の年休から控除することができます。同様に、時季指定を繰越分の年休で行うこともできます。当年分、繰越分のいずれから時季指定するかを就業規則で規定しておくのが望ましいでしょう。
企業が就業規則などで独自に設けている特別休暇を取得した日数は、労働基準法39条8項の日数(使用者の時季指定義務のある5日から控除できる日数)には含まれません(但し、時効が経過した年休について、取得事由や時季を限定せずに取得可能としているような法定年休の日数を上乗せする場合を除きます)。
なお、特別休暇を、法改正を契機に廃止し、年休に振り替えることは、法改正の趣旨に沿わないとともに、就業規則変更により一方的に振り替える行為は、労働契約法10条による 合理性が必要とされています。

⑷育休との関係
基準日から1年間の期間(付与期間)の途中に育児休業が終了して復帰した労働者についても、労働基準法37条7項の5日間の年休を取得させなければならないとされています。但し、復帰後の残期間の労働日数の方が使用者が時季指定すべき残日数よりも少ない場合にはその限りではありません。

⑸使用者の時季指定後に労働者自ら年休を取得した場合について
使用者が時季指定をした年休日が到来する前に、労働者が自ら年休を取得した場合、使用者の時季指定は当然には無効とはならないとされています。使用者による時季指定を失効させるには、特に就業規則等で定めを設ける必要があります。

⑹年休管理簿の記載事項について
年休を付与(労働者による時季指定、計画年休、使用者による時季指定を含む)した時季、日数、基準日の他に半日単位で取得した回数及び時間単位で取得した時間数も記載する必要があります。

3 その他

⑴計画年休
年休の時季指定義務違反を防止し、年休の確実な取得を促す方法として、労使協定により計画年休の制度を導入する方法があります。

⑵年休の起算日の統一(斉一的取扱い)
多数の労働者の年休を管理する場合は、年休の起算日を統一して斉一的取扱いをするために、年休の前倒し付与をする場合があります(時季指定義務のかかる1年間の時季の定め方に関する特例が厚生労働省令に規定されています)。

※具体的な導入方法、内容については、当事務所までお問い合わせください。なお、近日発行予定の「別冊ビジネスガイド」(日本法令)で、当事務所の弁護士吉田肇が使用者の5日の時季指定義務全般について書いておりますので、ご参照ください。
                                        以上

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