判例・事例

無洲事件(東京地裁平成28年5月30日判決)

2016年9月30日 労働時間に関する事例・判例


【はじめに】
今回は、無洲事件(東京地裁平成28年5月30日判決)をもとに、使用者の労働者に対する、時間外労働に関する安全配慮義務について検討したいと思います。

【判決の要旨】
本件における元従業員の毎月の時間外労働の時間(1日8時間超過分と週40時間超過分の合計)は、平成24年8月から平成25年8月までの間、継続して概ね80時間又はそれ以上となっており(タイムカード上は、これをはるかに超える)、会社は36協定を締結することもなく、元従業員を時間外労働に従事させていた上、上記期間中、会社においてタイムカードの打刻時刻からうかがわれる元従業員の労働状況について注意を払い、事実関係を調査し、改善指導を行う等の措置を講じたことは証拠上認められないから、会社には安全配慮義務違反の事実が認められ、結果的に元従業員が具体的な疾患を発症するに至らなかったとしても、会社は安全配慮義務を怠り、1年余りにわたり、元従業員を心身の不調をきたす危険性があるような長時間労働に従事させたのであるから、元従業員には慰謝料相当額の損害が認められるべきであり、元従業員の会社に対する安全配慮義務違反を理由とする慰謝料の額としては、30万円が相当であると判断されました。

【実務上の留意点】

判例上は、「使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負担等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負う」とされています(最判平成12年3月24日・電通事件等)。
今回紹介した無洲事件においては、使用者が、タイムカードの打刻時刻から労働者の長時間労働を把握することができたにもかかわらず、労働者の労働状況について注意を払い、事実関係を調査し、改善指導等の措置が講じられていないことをとらえて安全配慮義務違反が認定されています。また、この判決において特徴的なのは、労働者が具体的な疾患を発症していないにもかかわらず、「心身の不調をきたす危険性があるような長時間労働に従事させた」として慰謝料請求が認められている点です。
したがって、使用者としては、労働者を時間外労働に従事させる場合には、その労働時間を把握するのはもちろん、労働時間が比較的長時間に及ぶような場合には、当該労働者等と適宜面談を行うなどの方法により事実関係を調査し、時間外労働を減らすような改善策を検討する等労働者の心身の健康を損なうことがないように注意することが必要となるでしょう。

以上

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