判例・事例

裁量労働制の議論に思う

2018年3月11日 労働時間に関する事例・判例


1 「働き方改革」推進関連法案の中から企画業務型裁量労働制の対象業務を広げる内容の法案が削除された。厚労省の実態調査をやり直したのちに、労政審で再度議論して再提出する方向ということだが、是非しっかりと議論をし直して、必要な修正も加えて提出しなおしてほしい。
杜撰な調査結果がクローズアップされて、あるべき裁量労働制に関する建設的な議論がなされなかったことは、大変残念だ。
2 報道によると、野村不動産は、その社員1900人のうち600人に企画業務型裁量労働制を違法に適用していたことを理由に労働局から社長が呼び出しを受け特別指導、是正勧告を受けたとされている。社員の一人が長時間労働が原因で過労死し、労災認定を受けたことが契機になったようだが、もともと労働省告示の指針でも、この事例のような個別営業業務は企画業務型裁量労働制の対象業務ではないとされている。
 裁量労働制について、実際の裁判になる例は少ないのだが、これまでも専門業務型裁量労働制の対象業務である「情報処理システムの分析又は設計の業務」に当たらないとされた平成大阪高判24年 7月27日〔エーディーディー事件〕、税理士資格を持たない者による税理士補助業務が専門業務型裁量労働制の対象業務である「税理士業務」には当たらないとされた東京高判平成26年 2月27日事件〔レガシィほか事件〕等、法の対象業務には当たらないとされた裁判例が出されている。特に前者の〔エーディーディー事件〕は、裁量労働制に求められる業務遂行上の裁量の余地が、タイトな納期を設定していたことや、専門業務型裁量労働制の対象業務に当たらないプログラミングについて未達が生じるほどのノルマを設定していたこと、また営業活動にも従事させていたことなどを理由に対象行政を否定している点は運用上も重視しなければならない点だろう。
3 裁量労働制のもとに、健康管理のための労働時間把握や医師の面接指導が適切に行われないまま、極めて長時間の時間外労働が行われている実態も一部では指摘されており、それを改めるための方策の審議と法案再提出を期待したい。
 その際に、本来機能しなければならない過半数労働者との労使協定(専門職型)や労使委員会決議(企画業務型)が有効に機能していない点も直視し、改善策を検討すべきだろう。なお、京都地判平成29年 4月27日は、労使協定が適法に選出された過半数代表によって締結されていない点及び就業規則も周知されているとはいえない点等をあげて、専門業務型裁量労働制の適用を否定している。
 過労死の発生したNHKの記者に対する専門業務型裁量労働制について、みなし労働時間が適切ではないとして、労基署から指導されたと報道されている。
4 新たな規制を含め改善を要する点は多いだろうが、一方で工場の労働者とは異なる、働き方に裁量の余地が広い労働者については、より広く裁量労働制の適用を考えるべきと思う。今後の建設的な議論を期待したい。
(吉田肇)

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