判例・事例

働き方改革関連法 「医師の面接指導」にかかる改正

2018年11月2日 労働時間に関する事例・判例


はじめに
 前回まで「働き方改革関連法」の改正内容につき、特に中小企業にとって影響が大きいと思われる点をご紹介してきました。
 今回は、「働き方改革関連法の改正(平成30年6月29日に成立)③」の3において少し触れた「医師の面接指導」にかかる改正内容を取り上げたいと思います。前号まででご紹介した事項と比べ、少しニッチではあるものの、労働者の健康管理に関わるものであり、また労基署の監督指導の重点項目でもあるので、実務上重要です。

1 改正の概要
(1)通常の(=(2)(3)以外の)労働者
 これまで、事業主は、①週40時間を超える労働時間(以下、「時間外労働時間」といいます)が月100時間を超え、②かつ疲労の蓄積が認められる労働者に対して、医師による面接指導(問診その他の方法により心身の状況を把握し、これに応じて面接により必要な指導を行うこと)を行わなければならないとされていましたが、
今回の改正で、①の時間外労働時間の要件が、月80時間を超える場合に引き下げられました。
 実施方法については、これまでと同様、上記に該当する労働者からの申出により行うとされており、申出がない場合にまで行う義務はありませんが、実効性確保(労働者からの申出が行われやすくする等)のため、事業者に、
・労働者に対する通知義務
(事業者は時間外労働時間の算定を行ったときは、速やかに、①の要件を満たす〔月80時間超えの〕労働者に対し、その時間外労働時間に関する情報を通知しなければならない。)
・産業医に対する情報提供義務
 (産業医を選任した事業者は、時間外労働時間の算定後、速やかに、産業医に対し、時間外労働時間が月80時間を超えた労働者の氏名及びその時間外労働時間に関する情報を提供しなければならない。)
等が課されています。
(2)研究開発業務に従事する労働者
 研究開発業務(新たな技術、商品又は役務の研究開発に係る業務)に従事する労働者については、「働き方改革関連法の改正(平成30年6月29日に成立)②」でご紹介したとおり、時間外労働の上限規制が適用されないとされたことから、(1)とは異なる規定が新設され、
事業者は、時間外労働時間が月100時間を超える場合には、医師による面接指導を行わなければならないとされています。
 時間外労働時間の要件こそこれまでと同じ「月100時間を超える」ですが、(1)②の「かつ疲労の蓄積が認められる」という要件はなく、(1)とは異なり労働者の申出により実施するものとはされていないため、時間外労働時間が月100時間を超えた場合には、必ず当該労働者に対し、医師による面接指導を行わなければなりません。違反した場合には、罰則(50万円以下の罰金)の対象となります。
 なお、事業主には(1)と同じ内容(月80時間を超えたという部分も同じです)の産業医に対する情報提供義務が課されています。
(3)高度プロフェッショナル制度の適用を受ける労働者
 中小企業においては、同制度の特に年収要件(具体的には省令で定めることとされており、厚労省は1075万円を想定しているようです)はハードルが高く、あまり導入は見込まれないと思われることから省略致します。もし同制度の導入をお考えの場合は、個別にご質問・ご相談いただければと存じます。

2 ちなみに…
・この「医師の面接指導」を行う義務の主体は、単に「事業者」とされており、特に規模は限定されていませんので、産業医の選任義務のない小規模な事業場のみの御会社でも適用されます。
・「働き方改革関連法の改正(平成30年6月29日に成立)③」の3においてもご紹介致しましたが、2(1)(2)の「医師による面接指導」を実施するため、事業者に、省令で定める方法(タイムカードによる記録、パーソナルコンピュータ等の電子計算機の使用時間等の客観的な方法その他の適切な方法とするとされています)により、労働者(高度プロフェッショナル制度の適用を受ける労働者は除きます )の労働時間の状況を把握する義務が新設されました。
 そもそも労働時間を把握していなければ、どの労働者が「医師による面接指導」の対象者となるか判断できないため、当然の規定といえるでしょう。
・この「医師の面接指導」にかかる改正は、平成31年4月1日より施行されます。

以 上

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