労働問題(使用者側)
解雇
整理解雇の有効性
今回は、整理解雇について考えてみましょう。
今回は、整理解雇が無効とされ、同時に整理解雇に対する抗議活動を指導した組合役員の懲戒解雇も無効とされた判例(東京地方裁判所平成18年1月13日決定)を題材にします。
(事案)B社は、一般貨物自動車、クレーン等のレンタルを主たる業とする会社であり、従業員は、現業部門32名、営業事務部門約20名で構成されている。現業部門全員と営業事務部門の1名の合計33名が労働組合員である。B社は、業績不振を理由に、現業部門のAら組合員15名を整理解雇した。また、整理解雇の通知を受けたAらがそれに抗議し、緊急の対策会議を行うためラフター(自走可能なクレーン)に乗って会社車庫に集合したが、それが本来ラフターを置いておくべき場所におかず、また元に戻すように求める会社の業務命令にも直ちに従わなかったとして労組三役のAら3名に対して懲戒解雇を通告した。
(決定の内容と解説)
裁判所は、整理解雇、懲戒解雇をいずれも無効と判断しました。順番に説明しましょう。1 整理解雇の有効性判断の四要素
会社が業績不振に陥り特定の社員を整理解雇した場合、裁判所は一般に以下の4要素を総合的に考慮して解雇が有効か否かを判断します。第1に人員削減の必要性です。人員削減をしなければ倒産必至であることまでは要求されませんが、高度の経営上の困難から人員削減が要請される状況であることが必要とされています。B社の場合、もとの会社を分社して4ヶ月しか経過しておらず、売上が減少して赤字である証拠は提出されているものの、それは一時的に労災あるいは私病の社員がいたためであり、今後も同様の経営不振が続くとは認められないとされました。また、非現業部門はそのまま維持しながら非現業部門の約半分を削減するのは不自然であるとも裁判所は指摘しています。第2に解雇回避努力義務です。会社は、配転、出向、希望退職、新規採用の抑制などにより解雇を回避する努力を尽くしたうえでないと整理解雇は無効とされます。裁判所は、多くの場合この解雇回避努力をどの程度尽くしたかを重視して判断をしています。勿論、会社の規模や経営不振の理由などにより可能な回避策の内容も異なるので、よく検討する必要があります。B社は、一応希望退職を募ったものの、条件は特別退職金として1ヶ月強分の特別退職金を支給するだけであり、募集期間も僅か5日間に過ぎなかったことから不十分とされました。第3に人選の合理性です。整理解雇は、一種の指名解雇になる場合が多いので、人選の基準が客観的に見て合理的であることが求められます。欠勤・遅刻回数、服務規律違反歴の回数、勤続年数などの企業貢献度、特別な技術、資格の有無、当該労働者に対する経済的打撃の程度等が考えられます。B社の場合は、客観的基準といえるほどのものはありませんでした。第4に手続きの相当性です。会社は、整理解雇に先立ちその必要性、時期、規模、方法について説明を行い、誠実に協議する必要があります。B社はこれも尽くしていませんでした。
2 懲戒解雇の有効性
Aらのラフターに乗って会社車庫に集まった行動、もとの場所に戻すようにとの命令に従わなかった行動は、形式的には業務命令違反であり、就業規則の懲戒事由に当たるものでした。しかし、懲戒処分にも、譴責、減給、出勤停止、降格、懲戒解雇など種々のものがあります。懲戒事由の内容に照らして重きに失した懲戒処分は無効とされます(相当性の原則)。B社の場合も、そもそも整理解雇が無効でありそれに抗議、協議するために急いで集まる必要性があったことや、業務に現実に支障は出ていないこと、過去に処分歴がないことなどを考慮して懲戒解雇は重すぎ、無効とされました。
(一言)
経営者は、いかに環境が厳しくとも、時代の変化に対応して経営を維持し発展させる責任があります。整理解雇は、基本的に従業員には特段の落ち度がないにもかかわらず、経営上の理由で行う解雇ですから、非常に厳しい条件が課されています。しかし、時代、経営環境の変化が余りに早く、企業を維持するためにやむを得ず人員削減を迫られることはあります。その際にも、経営者は、従業員に対して誠実に向き合い、既に述べた4点を特に考慮に入れて対処する必要があるのです。
労働審判について
1.労働審判の特徴
労働審判制度の特徴は、3S(Speedy(迅速)、Specialized(専門性)、Suitable(事案に即した))といわれています。労働審判は、原則として3回以内に結論を出すこととされており、労働審判官(裁判官)労働審判員(労使双方の各団体から推薦された民間人2人)と双方弁護士の専門家が関与して進められ、後に述べるような迅速かつ適正な解決に適した事件について審理されることになります。
これまで長期化することが多かった労働裁判が、原則として3ヶ月前後で解決されるようになるのです。
また、調停をまず試みることが原則とされており、事件の内容、当事者の態度いかんで、早期に話し合い解決ができる可能性があります。
更に、例えば、解雇撤回を労働者が求めた裁判で、金銭による解決を命令する審判も可能になります(但し、当事者がそれを望まない意思を明示している場合は別です)。
しかし、一方で当事者の負担は重くなります。とりわけ、通常、使用者側にとって、労働者の申立後1ヶ月あまりで答弁書と証拠を整理して提出しなければならず、しかも第1回期日の審理を充実することが極めて重要とされているため、大きな負担となります。当事者は、原則として第2回期日までに、証拠をすべて提出し終えなければならないとされています(規則27条)。
2.労働審判の対象になる事件
労働審判制度が導入されても、通常の裁判は存続します。労働裁判の対象になるのは、個々の労働者と事業者の間に生じた民事に関する紛争(労働審判法第1条)で、労働審判を行うことが紛争の迅速かつ適正な解決のために適当でないと認められる(法第24条)事件を除いたものです。
現在の労働審判事件の多くを占める賃金や解雇、配転に関する事件は、大部分が労働審判の対象になります。
労働審判の対象にならない事件としては、多数当事者の事件、賃金差別などの差別事件、他の社員全体に影響を及ぼす就業規則の不利益変更事件などがあります。
3.対応策
上記のように、労働審判は、事件を早期に解決できるのはよいですが、特に使用者の側に多くの負担を負わせることになります。紛争が発生したとき、あるいは発生しそうなときには、すぐに労働事件に詳しい弁護士にご相談ください。早期に充実した準備ができているかどうかで結論は大きくかわります。
なお、労働審判の結論に対しては、意義申立が可能ですが、意義申立後の裁判は裁判と同じ裁判官が担当することが予定されており、証拠も裁判で提出されたものを再提出することが認められているので、労働裁判が持つ意味とはとても大きいのです。