判例・事例

所有権留保付き不法占有車の撤去

2011年7月15日 その他


もし、あなたが所有あるいは管理している駐車場(土地)に、長い間、勝手に自動車が止められていた場合、駐車場の所有者(以下では「駐車場所有者」として統一したいと思います。)としては、自動車の撤去と駐車場使用料相当の損害金を求めたいと考えると思います。
では、その自動車に所有権留保がついている(ローンで購入した際に、支払が終わるまで担保として自動車の所有権を留保し、完済した時点で所有権を購入者に移転させる方法)とき、所有権留保をつけている会社等(以下「留保所有権者」といいます。)に対して自動車の撤去等を要求することができるでしょうか。
この点について、最高裁判所は、駐車場所有者が、留保所有権者に対して不法に放置された自動車の撤去等を求めた事案で、平成21年3月10日、以下のような判断をしました。

①留保所有権者は、残債務弁済期が到来するまでは、自動車が第三者の土地上に存在して第三者の土地所有権の行使を妨害しているとしても、特段の事情がない限り、当該動産の撤去義務や不法行為責任を負うことはない。
②残債務弁済期が経過した後は、留保所有権が担保権の性質を有するからといって撤去義務や不法行為責任を免れることはない。
③残債務弁済期の経過後であっても、留保所有権者は、原則として、自動車が第三者の土地所有権の行使を妨害している事実を知らなければ不法行為責任を問われることはなく、妨害の事実を告げられるなどしてこれを知ったときに不法行為責任を負う。

この判決によれば、「残債務弁済期」が経過したかどうかで、留保所有権者に対して自動車の撤去を求めることができるのかが決まることになります(①、②)。この「残債務弁済期が経過した」とは、自動車の購入者が留保所有権者への支払いを遅滞し、留保所有権者が、支払が遅れているのでこれからはもはや分割払いではなく残額を全額請求しますという通知を出した後のことを言います。
留保所有権者は、この通知を出せば、担保にしていた自動車を回収したり処分したりすることができる権限(権能)をもつことになります。最高裁判所は、残債務弁済期経過後は、留保所有権者は、担保として確保しておくだけではなく、実際に処分するなど強い権限をもつのだから、自動車が第三者(この場合は駐車場所有者)に迷惑をかけた場合にも責任をとるべきであると判断したと思われます(②)。
もっとも、駐車場使用料を請求できるのは、留保所有権者が、自動車が駐車場の不法占有をしていることを知ったときからとしています(③)。

「管理している駐車場に、自動車が長期間勝手に停められている。車検証を見ると、所有権留保がついている…」、こんな場合に遭遇した時は、この判例を思い出していただければ幸いです。
なお、ここでご紹介した判決の全文は最高裁判所ホームページで見ることができます。
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090310111231.pdf
以上

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