判例・事例

新型コロナウイルスの影響による事業用不動産の賃料不払いと賃貸借契約の解除

2020年5月12日 その他


1 新型コロナウイルスに伴う緊急事態宣言の影響により、スポーツジムや飲食店等を中心に客足が遠のき急激に売り上げが落ち込むといった非常に大きな影響が現れています。テナントの賃料を支払えない、支払われないという問題も増えていますが、賃料不払いを理由とした賃貸借契約の解除について検討します。

2 賃貸借契約と信頼関係破壊の法理
契約関係にある一方の当事者が他方の当事者に対して契約内容で約束された義務を果たさず、他方当事者からの履行の催告にもかかわらず、義務違反が解消されない場合、他方の当事者は、契約を解除することができます(民法541条)。
しかし、賃貸借契約の場合、「賃貸借契約は、当事者間の信頼関係を基礎とする継続的な関係であることを踏まえれば、契約違反があったとしても、それが信頼関係を破壊したといえない場合には、解除することができない」とする信頼関係法理というものがあります。同法理より、例えば賃料の支払いが1度や2度遅れたとしても、当事者の信頼関係が破壊されていない限りは、解除することはできないとされているのです。※注

3 新型コロナウイルスの影響により、1ヶ月や2ヶ月分の支払遅滞があった場合であっても、上記信頼関係法理により、直ちに賃貸借契約は解除できないケースが多いと思われます。これについては、法務省民事局の見解も同趣旨と思われ、そこでは、「新型コロナウイルスの影響により3カ月程度の賃料不払が生じても、不払の前後の状況等を踏まえ、信頼関係は破壊されておらず、契約解除(立ち退き請求)が認められないケースも多いと考えられます。」とされていますので、参考にして下さい。

4 賃料不払いの前後の状況等によっては、3か月の賃料不払であっても、信頼関係は破壊されないケースが多いとされていますが、例えば、コロナウイルスの影響以前に賃料不払いが多数回あったというような場合には、不払期間について3か月を待つまでもなく、信頼関係が破壊されたとされるケースもありえます。直近の支払遅延もなく、賃借人が持続化給付金を受給できれば、すぐに支払いをすることを約束している場合のように、賃料支払原資の確保の蓋然性に裏付けられた支払約束がある場合等により賃料不払いの違反状態が間もなく解消される合理的な可能性がある場合は、信頼関係が破壊されていない方向に傾く事情になりえます。

5 以上を踏まえて、賃借人としては、不払があったとしても直ちに賃貸借契約が解除されるわけではないことを念頭においたうえで、持続化給付金日本政策金融公庫や商工中金の新型コロナ感染症特別貸付等を利用しつつ、支払猶予や分割払いの交渉を賃貸人と交渉するべきでしょう。賃貸人としても解除が有効なことを前提に、賃貸物件を使用させない等の行動をとった場合はかえって契約違反とされる恐れがあります。拙速な強行行動は控えつつ、賃料の分割払いに応じる場合は、一度でも遅滞すれば残額を直ちに払う必要があるとする懈怠約款条項を要求する等、法的に賃料支払いを促す等の工夫が考えられます。

                                             以上

※注 仮に賃貸借契約書に「賃借人が賃料を1か月分でも滞納した場合は、直ちに解除することができる。」との条項(無催告解除特約)があったとしても、「賃貸借契約が当事者間の信頼関係を基礎とする継続的債権関係であることにかんがみれば、賃料が約定の期日に支払われず、これがため契約を解除するに当たり催告をしなくてもあながち不合理とは認められないような事情が存する場合には、無催告で解除権を行使することが許される旨を定めた約定であると解するのが相当である」(最判昭和43年11月21日)とするのが最高裁の立場です。つまり、無催告解除特約があったとしても、信頼関係が破壊されていないような事情があれば、解除が無効となる可能性があることに注意が必要です。

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