判例・事例

副業・兼業の促進に関するガイドラインの改定

2020年10月14日 その他


令和2年9月1日に、厚生労働省の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(以下、「ガイドラインといいます)が改定されました。そのポイントを今記事と次記事以降に分けてご紹介します。

1.企業の対応の基本的な考え方
ガイドラインは、
・原則、副業・兼業を認める方向とすることが適当。
・副業・兼業を禁止、一律許可制にしている企業は、副業・兼業が自社での業務に支障をもたらすものかどうかを今一度精査したうえで、そのような事情がなければ、労働時間以外の時間については、原則、副業・兼業を認める方向で検討することが求められる。
としています(この点は改定前から同様)。
そのうえで、副業・兼業の場合の留意点として、新たに

(1)安全配慮義務
使用者が、労働者の副業・兼業を含む全体としての業務量・時間が過重であることを把握しながら、何らの配慮をしない場合には、安全配慮義務違反を問われる可能性があります。そこで、
 ・就業規則等において、長時間労働等によって労務提供上の支障がある場合には、副業・兼業を禁止又は制限できるようにしておく
 ・副業・兼業の届出等の際の確認、開始後の報告等(後記2ご参照)→労働者の健康状態に問題が認められた場合には適切な措置を講ずる

(2)秘密保持義務
 ・就業規則等において、業務上の秘密が漏洩する場合には、副業・兼業を禁止又は制限できるようにしておく
 ・副業・兼業労働者に対する注意喚起(秘密となる情報の範囲、同秘密を漏洩しないこと)

(3)競業避止義務
 ・就業規則等において、競業により、自社の正当な利益を害する場合には、副業・兼業を禁止又は制限できるようにしておく
 ・同労働者に対する注意喚起(禁止される競業行為の範囲、自社の正当な利益を害しないこと)
 ・他社の労働者を自社でも使用する場合、当該労働者が他社に対して負う秘密保持義務、競業避止義務に違反しないよう、確認・注意喚起(競業避止義務等に反することを知りながら他社の労働者を雇用することにより、共同不法行為責任を負う可能性があります。)

(4)誠実義務
 ・就業規則等において、自社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合には、副業・兼業を禁止又は制限できるようにしておく
 ・副業・兼業の届出等の際の確認(後記2ご参照)

等が考えられると指摘しています。

2.副業・兼業の確認

使用者は、副業・兼業に伴う労務管理を適切に行うため、届出制など副業・兼業の有無・内容を確認するための仕組みを設けておくことが望ましいとして、その際に労働者から確認する事項として以下の事項を例示しています。

 ・副業・兼業先の事業内容
 ・副業・兼業先で労働者が従事する業務内容
 ・労働時間通算(後記3ご参照)の対象となるか否か

【労働時間の通算の対象となる場合】以下の事項についても併せて確認・合意が望ましい

 ・副業・兼業先との労働契約の締結日、期間
 ・副業・兼業先での所定労働日、所定労働時間、始業・終業時刻
 ・副業・兼業先での所定外労働の有無、見込み時間数、最大時間数
 ・副業・兼業先での実労働時間等の報告の手続
 ・これらの事項について確認を行う頻度

いずれも、以下のとおり、実務上、労働時間の管理(労働時間の制限、割増賃金の支払義務、安全配慮義務等に関連します)や競業避止義務違反の有無等を判断するうえで必要な事項ですから、これらの事項については最低限確認するとともに、書面で取り決めておく必要があるでしょう。

3.労働時間の通算

「労働時間は、事業場を異にする場合(注:事業主が異なる場合を含みます)においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。」(労基法38条1項)とされています。そのため、

 ・労基法が適用されない場合(例:副業・兼業の形態がフリーランス、独立、起業等の場合)か、
 ・労基法は適用されるが労働時間規制が適用されない場合(例:管理監督者、監視断続労働者等)

を除き、自社における労働時間と副業・兼業先での労働時間が通算されることになります。
このことは、特に36協定、法定時間外労働の上限規制(時間外労働と休日労働の合計で単月100時間未満、複数月平均80時間以内の要件)、割増賃金との関係で重要です。また安全配慮義務との関係でも留意が必要になります。
では、具体的にはどのように通算するのでしょうか。
                               (次記事に続きます。)

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