判例・事例

副業・兼業の促進に関するガイドライン(2)~労働時間の通算~

2020年11月11日 その他


前記事に引き続き、令和2年9月1日に改定された厚生労働省の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」のポイントをご紹介いたします。

1.労働時間の通算の必要性(前記事のおさらい)
 労基法38条1項により、自社における労働時間と、副業・兼業先での労働時間を通算する必要があります。以下で労働時間の通算について確認をしましょう。

2.労働時間の通算方法
(1)基本的事項
 ア 労働時間を通算管理する使用者、通算される労働時間
・全ての使用者(労働時間が通算されない業務(例えば、(個人事業主の業務、)管理監督者の業務)等に係るものを除く。)は、自らの事業場における労働時間と、労働者からの申告等により把握した他の使用者の事業場における労働時間を通算して管理する必要があります。
・仮に使用者が、労働者の他の使用者の事業場における労働時間について適切に確認し把握することに努めていたにも関わらず、労働者からの申告等がなかった場合や、労働者からの申告等により把握した他の事業場における労働時間が事実と異なっていた場合、後に改めて労働時間の通算のやり直しを行う必要はありません。その際、労働者からの申告等がなかった場合には労働時間の通算は要せず、また、労働者からの申告等により把握した他の使用者の事業場における労働時間が事実と異なっていた場合でも労働者からの申告等により把握した労働時間によって通算していれば足りることになります(時間外労働の割増賃金の支払い義務においても同様です、令和2年9月1日付基発0901号3号)。

 イ 基礎となる労働時間制度
  ・労働時間の通算は、自らの事業場における労働時間制度(例えば、フレックスタイム、変形労働時間、10人未満の小規模の商業・サービス業における週44時間の法定労働時間等)を基に、通算します。
・週の労働時間の起算日又は月の労働時間の起算日が、自らの事業所と他の使用者の事業所とで異なる場合についても自らの事業場における起算日を基にそこから起算した各期間における労働時間を通算することができます。

 ウ 通算して時間外労働となる部分
  ・労働時間を通算して自らの事業場における労働時間制度における法定労働時間を超える部分が、時間外労働となります。
以上を前提に、指針では、副業・兼業の開始前と開始後で分けて労働時間(時間外労働)を把握することにしています。

(2)副業・兼業の開始前
 ・自らの事業場における所定労働時間と、他の使用者の事業場における所定労働時間とを通算して自らの事業場の労働時間制度における法定労働時間を超える部分の有無を確認します。
 ・法定労働時間を超える部分がある場合には、時間的に後から労働契約を締結した使用者における当該超える部分が時間外労働となり、当該使用者における36協定で定めるところによって行います
(例1):労働者が、A事業場主と「所定労働時間8時間」を内容とする労働契約を締結している場合、A事業場における所定労働日と同一の日について、B事業場主と新たに「所定労働時間5時間」を内容とする労働契約を締結し、それぞれの労働契約のとおりに労働した場合(AB事業場ともに、双方の労働時間数を把握しているものとします。以下の例でも同様です。)

A事業場(労働者と先に労働契約を締結):8時間   法定時間内
           
B事業場(労働者と後に労働契約を締結):5時間   法定時間外

この場合、A事業場での労働時間が法定労働時間(8時間)に達しています。そのため、B事業場では時間外労働に関する労使協定の締結・届出がなければ当該労働者を労働させることができず、B事業場で労働した5時間は法定時間外労働であるため、B事業主はその労働について、割増賃金の支払義務を負います。

(3)副業・兼業の開始後
 ・(2)の所定労働時間の通算に加えて、自らの事業場における所定外労働時間と他の使用者の事業場における所定外労働時間とを当該所定労働外労働が行われる順に通算して、自らの事業所の労働時間制度における法定労働時間を超える部分の有無を確認します。
  ※自らの事業場で所定外労働時間がない場合は通算不要。
  ※自らの事業場で所定外労働時間があるが、他の使用者の事業場で所定外労働時間がない場合は、自らの事業場で所定外労働時間を通算する。
 ・法定労働時間を超える部分がある場合には、当該超える部分が時間外労働となります。各々の使用者は、通算して時間外労働となる時間のうち、自らの事業場において労働させる時間については、自らの事業場における36協定の延長時間の範囲内とする必要があります(→時間外労働と休日労働の合計で単月100時間未満、複数月平均80時間以内であることが必要)。
(例2):労働者がA事業主と「所定労働時間4時間」という労働契約を締結し、新たにB事業主と、A事業場における所定労働日と同一の日について、「所定労働時間4時間」という内容の労働契約を締結し、A事業場で5時間労働して、その後B事業場で4時間労働した場合。

労働契約上の労働時間   A事業場:4時間         B事業場:4時間
実際の労働時間       A事業場:4時間 + 1時間    B事業場:4時間
この場合、労働者がA事業場及びB事業場で労働契約のとおり労働した場合、1日の労働時間は8時間となり、法定労働時間内の労働となります。
既に1日の所定労働時間が通算して8時間に達しており、A事業場では時間外労働に関する労使協定の締結・届出が無ければ当該労働者を労働させることはできず、法定労働時間を超えて労働させたA事業主は(上記1時間分について)割増賃金の支払義務を負います。

(例3):労働者がA事業主と「所定労働時間3時間」という労働契約を締結し、新たにB事業主と「所定労働時間3時間」という内容の労働契約を締結し、A事業場で5時間労働して、その後B事業場で4時間労働した場合。

労働契約上の労働時間   A事業場:3時間   B事業場:3時間
実際の労働時間      A事業場:5時間   B事業場:3時間 + 1時間
この場合、労働者がA事業場及びB事業場で労働契約のとおり労働した場合、1日の労働時間は6時間となり、法定労働時間内の労働となります。
ここでA事業主が労働時間を2時間延長した場合、A事業場での労働時間が終了した時点では、乙事業場での所定労働時間も含めた当該労働者の1日の労働時間は法定労働時間内(8時間)であり、A事業場は割増賃金の支払等の義務を負いません。
その後B事業場で労働時間を延長した場合は法定労働時間外労働となるため、B事業場では時間外労働に関する労使協定の締結・届出が無ければ当該労働者を労働させることができず、当該延長した1時間についてB事業主は割増賃金の支払義務を負います。

3.管理モデル
副業・兼業の場合の労働管理の通算は上記の通りですが、今回改定されたガイドラインにて簡便な労働時間管理の方法として「管理モデル」が提案されています。次回は「管理モデル」についてご紹介いたします。

                              (次記事に続きます。)

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