判例・事例

テレワークの導入及び実施について(2) ~費用負担・労働時間制度等~

2021年6月11日 その他


前記事に引き続き、テレワークの導入及び実施にあたり、特に実務上問題となり得る点についてご紹介いたします。
※前記事:テレワークの導入及び実施について(1) ~テレワークガイドライン~

第1 費用負担に関する課税関係
1 前回、費用負担について在宅勤務に通常必要な費用について、その費用の実費相当額を清算する方法により、企業が従業員にたいして支給する一定の金銭については、従業員に対する給与として課税する必要はないことをご紹介しました。では、どのように実費相当額を清算すれば良いのでしょうか。以下で具体的な方法を挙げます。(なお、企業が従業員に在宅勤務手当(従業員が在宅勤務に通常必要な費用として使用しなかった場合でも、その金銭を企業に返還する必要がないもの(例えば、企業が従業員に対して毎月5,000円を渡切りで支給するもの))を支給した場合は、従業員に対する給与として課税する必要があります。)

2 従業員へ貸与する事務用品等の購入※1
① 企業が従業員に対して、在宅勤務に通常必要な費用として金額を仮払いした後、従業員が業務のために使用する事務用品等を購入し、その領収証等を企業に提出してその購入費用を清算(仮払金額が購入費用を超過する場合は、その超過分を企業に返還※2)する方法。
② 従業員が業務のために使用する事務用品等を立替払いにより購入した後、その購入に係わる領収証等を企業に提出してその購入費用を清算(購入費用を企業から受領)する方法。

※1:事務用品等については、企業がその所有権を有し従業員に貸与するものを前提としています。貸与ではなく、支給する場合(事務用品等の所有権が従業員に移転する場合)には、従業員に対する現物給与として課税する必要があります。

3 通信費・電気料金
(1)清算方法
① 企業が従業員に対して、在宅勤務に通常必要な費用として金銭を仮払いした後、従業員が家事部分を含めて負担した通信費や電気料金について、業務のために使用した部分を合理的に計算し、その計算した金額を企業に報告してその清算をする(仮払金額が業務に使用した部分の金額を超過する場合、その超過部分を企業に返還する※2)方法。
② 従業員が家事部分を含めて負担した通信費や電気料金について、業務のために使用した部分を合理的に計算し、その計算した金額を企業に報告してその清算をする(業務のために使用した金額を受領する)方法。

※2:企業が従業員に支給した金銭のうち、購入費用や業務に使用した部分の金額を超過した部分を従業員が企業に返還しなかったとしても、その購入費用や業務に使用した部分の金額は従業員に対する給与として課税する必要はありませんが、その超過部分は従業員に対する給与として課税する必要があります。

(2)業務のために使用した部分の計算書式例
「在宅勤務に係る費用負担等に関するFAQ(源泉所得税関係)(令和3年1月、国税庁)」では、業務のために使用した部分の合理的な計算として、以下のような算式例が挙げられています。

ア 通信費
ア

上記計算式及びイの計算式の「1/2」については、1日のうち、睡眠時間を除いた時間の全てにおいて均等に基本使用料や通信料が生じていると仮定し、次のとおり算出しています。

     ①1日:24時間
     ②平均睡眠時間:8時間
     ③法定労働時間:8時間
     ④11日のうち、睡眠時間を除いた時間に占める労働時間の割合:③÷(①-②)

【例】:従業員が9月に在宅勤務を20日間行い、1ヶ月に基本使用料や通信料1万円を負担した場合の業務のために使用した部分の計算方法。

     10,000円×(20日(在宅勤務日数))/(30日(9月の日数))×1/2=3,334円(1円未満切上げ)

イ 電気料金
イ

第2 様々な労働時間制度の活用
(1)通常の労働時間制度及び変形労働時間制
・始業及び終業時刻や所定労働時間をあらかじめ定める必要がありますが、テレワークでオフィスに集まらない労働者について必ずしも一律の時間に労働する必要がないときには、所定労働時間はそのままとしつつ、始業及び終業の時刻についてテレワークを行う労働者毎に自由度を認めることが考えられます。
・このような場合、使用者があらかじめ就業規則に定めておくことによって、テレワークを行う際に労働者が始業及び終業の時刻を変更することができるようにすることが可能です。

(2)フレックスタイム制
・労働者が始業及び終業の時刻を決定することができる制度であり、テレワークになじみやすい制度。
・テレワークには、働く場所の柔軟な活用を可能とすることにより、以下のように、労働者にとって仕事と生活の調和を図ることが可能となります。
 * 在宅勤務の場合に、労働者の生活サイクルに合わせて、始業及び終業の時刻を柔軟に調整することや、オフィス勤務の日は労働時間を長く、一方で在宅勤務の日は労働時間を短くして家庭生活に充てる時間を増やすといった運用が可能。
 * 一定程度労働者が業務から離れる中抜け時間についても、労働者自らの判断により、その時間分その日の終業時刻を遅くしたり、清算期間の範囲内で他の労働日において労働時間を調整することが可能。
 * テレワークを行う日についてはコアタイム(労働者が労働しなければならない時間帯)を設けず、オフィスへの出勤を求める必要がある日・時間についてはコアタイムを設けておくなど、企業の実情に応じた柔軟な取扱いも可能。

(3)事業場外みなし労働時間制
・労働者が事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定することが困難なときに適用される制度であり、使用者の具体的な指揮監督が及ばない事業場外で業務に従事することとなる場合に活用できる制度です。
・テレワークにおいて、次の①②をいずれも満たす場合には、制度を適用することが可能。
① 情報通信機器が、使用者の指示により常時通信可能な状態におくこととされていないこと。
(例)・勤務時間中に、労働者が自分の意思で通信回線自体を切断することができる場合
・勤務時間中は通信回線自体の切断はできず、使用者の指示は情報通信機器を用いて行われるが、労働者が情報通信機器から自分の意思で離れることができ、応答のタイミングを労働者が判断することができる場合   
・会社支給の携帯電話等を所持していても、その応答を行うか否か、又は折り返しのタイミングについて労働者において判断できる場合
② 随時使用者の具体的な指示に基づいて業務を行っていないこと。
(例)使用者の指示が、業務の目的、目標、期限等の基本的事項にとどまり、1日のスケジュール(作業内容とそれを行う時間等)をあらかじめ決めるなど作業量や作業の時期、方法等を具体的に特定するものではない場合

(4)業務の性質等に基づく労働時間制度
・裁量労働制や高度プロフェッショナル制度は、業務遂行の方法、時間等について労働者の自由な選択に委ねることを可能とする制度。
・対象労働者について、テレワークの実施を認めることで、労働する場所についても労働者の自由な選択に委ねることが考えられます。

第3 中抜け時間
・中抜け時間については、労働基準法上、使用者は把握することとしても、把握せずに始業及び終業の時刻のみを把握することとしても、いずれでもよい。
・テレワーク中の中抜け時間を把握する場合、例えば1日の終業時に、労働者から報告させることが考えられます。
・テレワーク中の中抜け時間の取扱いとしては以下が考えられます。このような取扱いについては、あらかじめ使用者が就業規則等において定めておくことが重要です。
① 中抜け時間を把握する場合には、休憩時間として取り扱い終業時刻を繰り下げたり、時間単位の年次有給休暇として取扱う
② 中抜け時間を把握しない場合には、始業及び終業の時刻の間の時間について、休憩時間を除き労働時間として扱う

第4 長時間労働対策
テレワークについては、業務の効率化に伴い、時間外労働の削減につながるというメリットが期待される一方で、

・労働者が使用者と離れた場所で勤務をするため相対的に使用者の管理の程度が弱くなる
・業務に関する指示や報告が時間帯に関わらず行われやすくなり、労働者の仕事と生活の時間の区別が曖昧となり、労働者の生活時間帯の確保に支障が生ずる

といったおそれがあることに留意する必要があります。

このような点から、長時間労働による健康障害防止を図ることや、労働者のワークライフバランスの確保に配慮することが求められています。テレワークにおける長時間労働等を防ぐ手法としては、次のような手法が考えられます。
 * メール送付の抑制等
役職者、上司、同僚、部下等から時間外にメールを送付することの自粛を命ずること等が考えられる。メールのみならず電話等での方法によるものを含め、時間外等における業務の指示や報告のあり方について、業務上の必要性、指示や報告が行われた場合の労働者の対応の要否等について、各事業場の実情に応じ、使用者がルールを設けることが考えられます。
 * システムへのアクセス制限
所定外深夜・休日は事前に許可を得ない限り、企業等の社内システムに外部のパソコン等からアクセスできないよう使用者が設定することが考えられます。
                                      

第5 さいごに
労使双方がテレワークのメリットを享受するために、あらかじめ労使で十分に話し合い、ルールを定めて導入する必要があります。ご不明な点等ございましたらご相談ください。
                                      以上                                                                                        

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