判例・事例

事業承継 その2

2007年10月25日 事業承継、M&A


中小企業と事業承継(2)
 次に、株式が承継させる人間以外に分散するのを防止する方法です。
⑴株式の分散防止
次に、相続等による株式の分散を防止する方法です。典型的なものとして、以下の方法があります。いずれも、株式譲渡制限会社を念頭に置いています。
1,議決権制限株式の発行
2,特定の株主(後継者)にのみ議決権を行使できるようにする。
3,拒否権付株式(いわゆる黄金株)の発行
4,相続人に対する売渡請求
㈠議決権制限株式の発行
 相続に先立って、議決権制限株式(完全に議決権を奪うことも、特定の事項についてのみ議決権を制限することも可能です)を発行しておいて、後継者には普通株式を、それ以外の相続人には議決権制限株式を相続させる方法です。後継者以外が相続する株式は、議決権がないので経営に口出しされるおそれはありません。剰余金や残余財産の分配の権利のみを持つことになります。株主総会の特別決議が必要です。
 遺言書によって相続させる株式を指定しておけばよいのですが、後継者以外の遺留分を侵害しないように注意が必要です。生前に贈与しておく方法もありますが、贈与税等の検討が必要ですし、この場合でも遺留分には注意が必要です。
 オーナー経営者の中には、自分の眼の黒いうちは経営の実権を握っておきたいと考えて株式の贈与、売買には消極的な方も少なくありませんが、のちに述べる黄金株を発行し、オーナーが持つことで経営に対する睨みを利かせる方法もあります。
㈡特定の株主(後継者)にのみ議決権を行使できるようにする方法
 これは、新しい会社法で認められた制度ですが、株式ではなく、株主に着目して、特定の株主にだけ議決権や配当、剰余金について異なる扱いをすることを認める制度です。株主は平等に扱わなければならないという株主平等の原則の例外を法が認めたのですが、株主総会の特殊決議(総株主の半数以上かつ、総株主の議決権の4分の3以上の賛成)で定款を変更しておくことが必要です。例えば、取締役の地位にある株主のみが議決権を行使できるように定款を変更することが考えられます。また、それ以外の株主には剰余金などの分配について優先的な権利を与えることもできます。
㈢黄金株の発行
 これは、拒否権付株式ともいわれるもので、株主総会決議をするにあたって、黄金株を持っている株主の賛成が得られない限り決議ができないという制度です。オーナーが引き続き経営ににらみを利かせたい場合や、後継者に黄金株を与えて重要な事項についての決定権限を与えたいときなどに用います。後継者が過半数の株式を有する場合は、この制度は必要ありません。特定の決議についてのみ拒否権を与えることも可能です。
 黄金株を発行するためには、株主総会の特別決議が必要です。
 但し、この黄金株は、過半数の株式を有する側と対立をしたときには、いわゆるデッドロックにある可能性がありますから、その発行は慎重に判断をする必要があります。
㈣相続人に対する売渡請求
 好ましくない人物に株式を相続されるのを防ぐための制度です。従業員に株式を持たせている場合や、後継者以外の親族に株式を持たせている場合などは利用価値があるでしょう。譲渡制限つきの株式について、会社から相続人に対して売り渡し請求ができるようにあらかじめ定款を変更しておきます。相続が発生するごとに、株主総会の特別決議で売渡請求を決議することが必要です。
但し、注意が必要なのは、相続人に対する売渡請求を決める株主総会では、売渡請求を受ける相続人には議決権が認められないことです。ですから、例えば、オーナーがなくなって後継者がその株式を相続しようとするときに、ほかの株主が結託をして売渡請求を決議する事態も考えられます。後継者に相続させる株式については譲渡制限を付けないなどそれを防ぐための手立てを講じておく必要があります。

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