判例・事例

相続法改正、今月より施行

2019年7月5日 相続


本年の「あおぞら」でもご紹介しましたが、昨年7月に相続法改正が成立しました。
この7月1日からその大部分が施行されましたので、改めてその概要をご紹介したいと思います。
なお、約40年ぶりの大きな改正で、改正内容が多岐にわたることから、主な改正内容のうち、特に事業承継との関係で重要と思われるものを中心にご紹介したいと思います。

1 既に施行されているもの

 自筆証書遺言の方式緩和(平成31年1月13日施行)
 従前自筆証書遺言を作成する場合には、財産目録も含め、その全文を自書(自分で手書きで書くこと)しなければならないとされていましたが、作成の負担軽減のため、自筆証書遺言にこれと一体のものとして財産目録を添付する場合には、その目録についてはパソコン等で作成したり、通帳のコピー【預金】や登記事項証明書【不動産】等を目録として添付することができるようになりました。ただし、目録の全ページに署名・押印する必要があります。

2 本年7月1日から施行されたもの
(1)遺留分減殺請求の効果の見直し
 遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人に権利として認められている「一定の取り分」で、生前贈与・遺贈等により被相続人(亡くなった人)の財産が処分され、自身の遺留分が侵害された場合には、遺留分減殺請求権を行使し、受遺者・受贈者(生前贈与・遺贈等を受けた人)から侵害された分の財産を取り戻すことができます。これまで、この遺留分減殺請求権が行使された場合には、現物での返還が原則とされていたため、不動産や株式等についても当然に共有状態が生じ、事業承継に支障が生じかねませんでした。
 この遺留分減殺請求の効果が抜本的に見直され、権利者は遺留分侵害額に相当する「金銭」の支払のみを請求できることになりました。なお、支払わなければならない額が多額となり、すぐに準備できない場合もあり得ることから、受遺者・受贈者の請求により、裁判所は、その支払を一定期間猶予することができることとされています。
(2)相続の効力等に関する見直し
 これまで、例えば「長男には〇〇を相続させる」という内容の遺言(「相続させる」旨の遺言)の場合には、その遺言により承継された財産については、登記等をしなくても第三者に対抗(=これは自分のものだと主張)できることとされていました。
 しかし、改正により、このような「相続させる」旨の遺言の場合でも、法定相続分を超える部分の取得については、登記等の対抗要件を具備しなければ、第三者に対抗できないこととされましたので、不動産等の対抗要件のある財産を承継した相続人としては、すぐに登記等の対抗要件具備の手続を行うことが重要となります。
(3)婚姻期間が20年以上の夫婦間における居住用不動産の遺贈・贈与に関する優遇措置
(4)(遺産分割終了前の)預貯金の払戻し制度の創設(家庭裁判所での手続と金融機関での手続があり、両者で払戻しを受けることができる金額、要件が異なります)
(5)特別の寄与の制度の創設(相続人以外の被相続人の親族〔例えば相続人である長男の妻〕が、無償で被相続人の介護などの労務提供をして被相続人の財産の維持・増加に特別の寄与をした場合には、相続開始後、相続人に対して金銭の請求をすることができるようになりました)

 3 今後施行されるもの
(1)法務局における自筆証書遺言の保管制度の創設(令和2年7月10日施行)
 改正により、法務局で自筆証書遺言の保管してもらえる制度ができます。
①紛失のリスクが避けられる、②この制度を利用した場合には、自筆証書遺言の場合必要となる家庭裁判所における遺言書の検認の手続が不要となる等のメリットがありますので、何らかの事情で公正証書遺言の作成が困難で、自筆証書遺言によらざるを得ないという場合には、この保管制度を利用するのがよいでしょう(公正証書遺言の方が無効とされるリスクが低いことから、特に支障がない場合は公正証書遺言がおすすめです)。
ただし、この保管制度を利用する場合には、遺言書は「法務省令で定める様式に従って作成した無封のもの」としなければなりません。また保管申請は(代理人がすることはできず)必ず遺言者自身が法務局に出頭して行わなければならない点に留意が必要です。
(2)配偶者居住権等の新設(令和2年4月10日施行)
配偶者居住権:相続開始時に被相続人が所有する建物に住んでいた配偶者が、その建物に住み続けたい場合、例えば遺産分割において、建物の所有権自体は子に取得させつつ、配偶者が配偶者居住権を取得することで、原則として終身の間、その建物に無償で住むことができるようになります。配偶者が建物の所有権自体を取得する場合と比べ、配偶者の取得する財産が少なくなることから、預貯金等の他の財産についても受け取れる可能性が高くなるというメリットがあります。
 配偶者短期居住権:配偶者が相続開始時に被相続人所有の建物に無償で住んでいた場合に、少なくとも相続開始時から6か月間はその建物に無償で住み続けることができるようになります。                         
                                      以上

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