判例・事例

増え続けるパワハラによる自殺と損害賠償請求訴訟~その1

2015年6月9日 セクハラ・パワハラ等に関する事例・判例


、ある裁判例~「暁産業ほか事件」

パワハラが原因で精神疾患に罹り、自殺に到る事件が後を絶ちません。

長時間労働などの過重労働を伴う例が多いのですが、中には、上司の執拗なパワハラのみを理由にうつ病に罹患したと認めて会社と上司に損害賠償を命じた判決も見られます。

平成26年11月28日に福井地裁で出された「暁産業ほか事件」はその一例です。

、事件の内容 亡くなった社員は、高校を卒業後、被告会社に正社員として採用され、消防設備や消火器の保守点検業務に従事していましたが、ミスが多かったこともあり、上司から度々叱責を受けて約半年あまりでうつ病に罹患し、自殺しました。判決は、上司の発言は「仕事上のミスに対する叱責の域を超えて、社員の人格を否定し、威迫するものである。」としています。

判決は、上司が社員につけさせていた手帳の記載内容が、客観的事実に符合しており信用できるとした上で、以下のような上司の発言が繰り返されたとしています。

例えば、「学ぶ気持ちはあるのか、いつまで新人気分」「詐欺と同じ3万円(受託業務料)を泥棒したのと同じ」「会社辞めた方が皆のためになるんじゃないのか。辞めてもどうせ再就職できないだろ。自分を変えるつもりがないのなら家でケーキを作れば。店でも出せば。どうせ働きたくないんだろう」「いつまでも甘々、学生気分はさっさと捨てろ」「死んでしまえばいい」「辞めればいい」「今日使った無駄な時間を返してくれ」等々。  判決は、これらの言葉が経験豊かな上司から入社後1年にも満たない社員に対してなされたことを考えると典型的なパワーハラスメントといわざるを得ず、不法行為に当たるとしています。

判決は、会社と上司に対して、7200万円余りの損害を連帯して賠償するよう命じました。

、パワハラの防止と組織風土

このような痛ましい事件を発生させてはならないことは、多くの経営者の方々も同意されるところだと思います。

私も、使用者側代理人としてパワハラの問題に取り組んできましたが、多くの場合、単なる上司個人の個性だけではなく、それを許す組織の風土、企業文化ともいうべきものがあると考えています。人材マネージメントには人間の尊厳を守ることが重要な役割として期待されているといってよいでしょう(守島基博一橋大学教授)。

パワハラにせよ、メンタルヘルス対策にせよ、組織風土の改革を生産性の向上、企業発展のための戦略の中に位置づけて考える時期に来ているのではないでしょうか。

裁判例を参考に、考えてみたいと思います。

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