判例・事例

マタハラに関する近時の裁判例~ツクイ事件(福岡地裁小倉支部平成28年4月19日判決)~

2016年12月1日 セクハラ・パワハラ等に関する事例・判例


1 事案の概要
介護サービスを営む被告会社Y1の従業員Xは、Y1の運営するa事業所で就労していたところ、a事業所の所長Y2は、平成25年8月1日、Xから妊娠した旨の報告を受け、重たいものが持てないなど、業務の軽減を求められた。これに対するY2の言動や、被告会社Y1及びY2がXについて軽易な業務への転換をしなかったことがマタハラ及びパワハラに該当するとして、Xが損害賠償請求を求めたのが本件である。

2 判決の概要
裁判所は、被告会社Y1及び被告Y2の「妊娠以前から勤務態度に問題のあったXに対する勤務態度の改善を促す指導であった」との主張を退け、以下のとおり判示して被告らの損害賠償責任を認めました。
①被告Y2は、労働者が妊娠を理由として業務の軽減を申し出ることが許されない(「妊婦として扱うつもりないんですよ。」)とか、流産をしても構わないという覚悟をもって働くべき(「万が一何かあっても自分は働きますちゅう覚悟があるのか、最悪ね。だって働くちゅう以上、そのリスクが伴うんやけえ」)と受け止められる発言をするなど、配慮不足の点を否定することはできず、全体として社会通念上許容される範囲を超えている。被告Y2の言動に嫌がらせの目的までは認められないにしても、業務指導としては不当なものである。
②また、被告会社Y1及びY2が、8月1日にXから妊娠の報告を受けてから、同年12月になるまで具体的な措置を講じることはなかった点について、職場環境を整え、妊婦であったXの健康に配慮する義務に違反したものといえる。

3 実務上の留意点
会社側の主張によれば、本件の原告Xは妊娠前から、客に対し敬語を使わない、客からも見える場所で客用椅子にふんぞり返って連絡帳を作成するなど、勤務態度に問題があったとのことです。所長Y2は、原告Xから妊娠報告と軽減業務の申し出を受け、面談をする中で「やや感情的な態度と相まって」(判旨より引用)上記の言動をとったようです。しかし、判旨も指摘するように会社は妊娠した従業員に対し、その健康に配慮し、就業環境を整備する義務があります。もっとも、その配慮措置の内容(勤務時間の変更・短縮、配置換え等)は会社の具体的状況に応じて様々であると考えられます。まずは当該従業員からの要望を適切にヒアリングし、会社としてどのような対応を取ることができるのかを検討することから始める必要があります。
以上

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