判例・事例

今国会提出、パワハラ防止対策の法制化

2019年4月10日 セクハラ・パワハラ等に関する事例・判例


1 はじめに
昨年、働き方改革関連法が成立しましたが、今国会でも、パワハラ、女性活躍の推進、障害者雇用に関する法改正が予定されています。
今回はその中でも企業規模にかかわらず適用され、実務上の影響も最も大きいと思われるパワハラ防止措置義務の新設についてご紹介したいと思います。

2 パワハラ防止措置義務の新設(労働施策総合推進法)
(1)これまでセクハラ・マタハラとは異なり、パワハラについてはその防止措置を講ずることそれ自体を事業主に義務付ける法律はなく、法律上の定義もありませんでしたが、今回、新設される予定です。
改正案によれば、パワハラは「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されること」と定義され、事業主には、そのようなことがないように、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講ずることが義務づけられます。

(2)この定義は、従前、「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキンググループ報告」や「職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会報告書」で用いられていた定義とほぼ同じで、内容面で特段の変更はありません。
上記規定に基づき事業主が実際に講じなければならない措置については、指針で具体的に定めることとされていますが、おそらくはセクハラと同様、以下のような内容となるのではないかと予想されます。

① 事業主の方針の明確化及びその周知・啓発
ア パワハラの内容・パワハラがあってはならない旨の方針を明確化し、管理・監督者を含む労働者に周知・啓発すること。
イ パワハラの行為者については、厳正に対処する旨の方針・対処の内容を就業規則等の文書に規定し、管理・監督者を含む労働者に周知・啓発すること。

② 相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
ア 相談窓口をあらかじめ定めること。
イ 相談窓口担当者が、内容や状況に応じ適切に対応できるようにすること。 また、パワハラが現実に生じている場合だけでなく、発生のおそれがある場合や、パワハラに該当するか否か微妙な場合であっても、広く相談に対応すること。

③ 事後の迅速かつ適切な対応
ア 事実関係を迅速かつ正確に確認すること。
イ 事実確認ができた場合には、速やかに被害者に対する配慮の措置を適正に行うこと。
ウ 事実確認ができた場合には、行為者に対する措置を適正に行うこと。
エ 再発防止に向けた措置を講ずること(※事実が確認できなかった場合も同様)。

④ その他
ア 相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、周知すること。
イ 相談したこと、事実関係の確認に協力したこと等を理由として不利益な取扱いを行ってはならない旨を定め、労働者に周知・啓発すること。

(3)この改正の施行日は、公布日から起算して1年以内とされる予定ですが、中小事業主については、公布日から起算して3年以内の政令で定める日までは努力義務とする旨の経過措置が設けられる予定です。

3 コメント
実務上、パワハラは「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」か否かの判断が非常に難しく、訴訟においてすら地裁と高裁で判断が分かれることも珍しくありません。
また、前記検討会報告書では「企業内の相談窓口に寄せられた相談のほとんどが、何らかの感情の動きをパワーハラスメントという言葉に置き換えた相談であり、本当にパワーハラスメントに該当すると思われる相談は全体の1割弱であったという意見も示された」との指摘がなされています。
もちろん、周知・啓発等によりパワハラ―特に判断が分かれようのない悪質なもの―を予防することが必要かつ重要であることは当然ですが、他方で、このように基準があいまいな中、上記のような措置義務が新設されることで、今後更に(検討会報告書が指摘するような該当性に疑問ありの)「パワハラ」相談が増え、企業がその対応に大きな負担を強いられるのでないか、またそれに伴い上司に萎縮が生じ、指導・教育に支障が生じるのではないか、懸念されます。
いずれにせよ指針が公表された後は(経過措置の期間中についても)その内容に沿った適切な対応を行うことが望まれます。
                                      以 上

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