判例・事例

親会社が子会社の従業員による相談の申出の際に求められた対応をしなかったことをもって、信義則上の義務違反があったとはいえないとされた裁判例・イビデン事件(最高裁平成30年2月15日・労働経済判例速報2350号3頁)

2020年1月15日 その他の事例・判例


1.事案の概要
自社及び複数の子会社等の企業グループ内で法令遵守に関する相談窓口を設け、相談対応を行っていた親会社(被告会社)に対して、同グループの子会社に勤務していた従業員(原告)が、元交際相手である当該企業グループの別子会社の従業員Aによる交際要求等についての相談をしたにもかかわらず、求めた対応をしなかったことについて、相応の措置を講ずるなどの信義則上の義務に違反したと主張して損害賠償を求めた。


2.裁判所の判断

以下の事情の下においては、被告会社において原告から求められた原告に対する事実確認等の対応をしなかったことをもって、被告会社の信義則上の義務違反があったとはいえない。

・被告会社の体制は、相談窓口に対する相談の申出をした者の求める対応をすべきとするものであったとはうかがわれない。
・原告の相談の内容は、原告が退職した後に上記グループ会社の事業場外で行われた行為に関するものであり、従業員Aの職務執行に直接関係するものとはうかがわれない。
・原告の申出の当時、原告は、既に従業員Aと同じ職場では就労していない。
・原告の申出の時点で、原告が問題とするAの行為が行われてから8箇月以上が経過していた。


3.実務上の留意点

今回の判決では、会社の義務違反が否定されましたが、「2」でご紹介したとおり、その前提事情がかなり特殊(相談体制が相談者の求めに具体的に応える体制ではなかったこと、相談内容の業務との関連が弱かったこと、対応の緊急性及び必要性が乏しかったこと)であることに注意が必要です。親会社が法令遵守についての対応窓口を設け、それを子会社にも利用できるようにしている場合、子会社従業員から申出あれば対応する必要があり、その対応を怠った場合は信義則上の義務違反とされることの方が実際は多いでしょう。
実際の企業運営においては、法令遵守のための相談窓口を設けることは、トラブル予防のために望ましいことです。本裁判例は、相談窓口を設けることが責任追及のきっかけとなりましたが、責任追及を恐れて紛争予防のための手段を講じないのは適切ではないでしょう。利用しやすい相談窓口とするため、会社として相談事項やその後の対応の在り方等を周知し、「相談窓口があることで安心して働ける会社」づくりを目指したいですね。

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