判例・事例

継続的にパワーハラスメントを受けて精神疾患(うつ病)にり患し退職を余儀なくされたとして、会社に対し、使用者責任又は安全配慮義務違反に基づく損害賠償を請求した事案で、会社の責任が全面的に認められた裁判例(大阪高裁2019年1月31日・労判 1210号32頁)

2020年3月17日 セクハラ・パワハラ等に関する事例・判例


1 事案の概要
パチンコ店を経営していた会社に勤務していた原告が、上司から継続的にパワハラを受けて、メンタル不全に陥り退職届を提出せざるを得なくなったとして、辞職した後、会社側にメンタル不全により退職後働くことができなくなった期間に対応する給与(休業損害)及び慰謝料等の損害賠償を求めた。会社は、パワハラを否定するとともに、退職後、働くことができなくなった期間が長期化しているのは、原告固有の精神的な脆弱性に基づくものであるとして、損害賠償の減額(素因減額)がなされるべきであると争った。

2 裁判所の判断

①景品交換カウンターの横に午後5時まで約1時間立っているように命じたうえ、立たされている間、他の従業員に「みんなもちゃんと仕事せんかったら原告のような目にあうぞ。」とインカムを通じて発言する等の行為について、
・本来業務としては必要がない立ち番を指示され,これを勤務時間終了までの約1時間にわたって行うことを強いられ、しかも、このことをインカムを通じ、仕事をしなかった場合に受ける罰として他の従業員に通知されることによって、極めて屈辱的な扱いをされたものであるというほかはなく、まさに晒し者にされたというべきである。
として、パワハラであると認めた。

②メンタル不全が長引いているのは原告に精神的な脆弱性があるからであるとした会社の反論に対しては、損害の発生又は拡大に寄与した被害者の性格等の心因的要因を一定の限度で考慮(減額)することができるとしつつ、
・企業等に雇用される労働者の性格等は多様のものであるところ、ある業務に従事する特定の労働者の性格が同種の業務に従事する労働者の個性の多様さとして通常想定される範囲を外れるものでない限り、その性格等が当該労働者に生じた損害の発生又は拡大に寄与したとしても、そのような事態は使用者として予想すべきもの
・使用者は、各労働者がその従事すべき業務に適するかどうかを判断して、その配置先、遂行すべき業務の内容等を定めるのであり、その際に各労働者の性格をも考慮することができる。
・したがって、労働者の性格が労働者の個性の多様さとして通常想定される範囲を外れるものでない場合には、裁判所は、上司からパワーハラスメントを受けて、うつ病にり患したことを原因とする損害賠償請求において使用者の賠償すべき額を決定するに当たり、その性格及びこれに基づく業務遂行の態様等を,心因的要因として考慮することはできない。
今回の原告が、通常想定される範囲を外れたものであるという証拠はないため、原告の性格を理由に減額することは許されない。

3 実務上の留意点

(1)本件は業務上の行き過ぎた指導がパワハラと認定された事例です。パワハラとされたポイントは、必要のない立ち番を指示したこと及びインカムを通じて他の従業員にも聞こえるように原告に注意をしてさらし者にしたことです。指導の目的は、具体的な行為の改善です。不必要な仕事を命じたり、他の従業員に対して指導対象の従業員をさらし者にしたりすることは、指導の目的とも反することであり、業務上の指導ではなく、パワハラとされます。不必要でもなくとも、あえて本人の能力に見合わない過小な業務を与えたりすることや、メールでの指導の際、CCに他の従業員を入れることもパワハラとなることが多いので、その点にも留意が必要です。

(2)パワハラが非常に悪質な場合は、本件のように従業員がメンタル疾患となり、最終的には辞職することがあります。この場合、会社側が賠償するべき損害として、メンタル疾患のため働くことができなかった期間に対応する賃金相当額の損害賠償請求がされることは、本裁判例だけではありません。その際、本人の精神的な弱さが、メンタル疾患の発症及び治療の長期化を招いていると考えられる場合もありますが、本裁判例は、従業員の個性の多様性はもともと想定の範囲内であって、会社は、適材適所の配置を行うことができることを理由に、通常の想定の範囲外でなければ、損害賠償額の減額はできないとしています。これは、従前の最高裁判例(最高裁判所平成12年3月24日第二小法廷判決・民集54巻3号1155頁参照)の判断にそうものです。会社には、従業員の性格にも配慮して、適正配置を行うことが求められます。

PAGE TOP