判例・事例

精神障害の労災認定基準にパワハラが追加

2020年8月11日 セクハラ・パワハラ等に関する事例・判例


本年6月施行の改正労働施策総合推進法により企業のパワハラ防止措置義務が定められたこと等を踏まえ、労災の認定基準にもパワハラが明示されました。

1 おさらい~企業のパワハラ防止措置義務~
(1)パワーハラスメントとは?
改正労働施策総合推進法(以下「改正法」といいます)において、
職場において行われる

 ①優越的な関係を背景とした言動であって、
 ②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、
 ③労働者の就業環境が害されるもの

と定義されており、①~③をすべて満たす言動をいいます。
 なお、①の「優越的な関係」は、上司が典型ですが、同僚や部下であっても、被害者が行為者に対して抵抗・拒絶できない蓋然性が高い関係(例えば、行為者が業務上必要な知識や豊富な経験を有していて、行為者の協力を得なければ業務の円滑な遂行を行うことが困難である、集団による行為等)があれば該当します。

(2)企業が講じなければならないパワハラ防止対策とは?
  改正法では、企業のパワハラ防止措置義務が新設され(中小企業は令和4年3月31日までは努力義務)、企業は少なくとも以下の措置を講じる必要があります(指針)。

① 事業主の以下の方針等の明確化及びその周知・啓発
 ア パワハラの内容、パワハラをしてはならない旨の方針
 イ パワハラを行った者に対し、厳正に対処する旨の方針と対処の内容
  (就業規則等に規定)
② 相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
 ア 相談窓口をあらかじめ定め、周知する。
 イ 相談窓口の担当者が、相談に適切に対応できるようにする。パワハラ発生のおそれの段階や、パワハラに当たるか微妙な場合でも、広く相談に対応し、適切な対応を行うようにする。
③(申出があった場合の)事後の迅速かつ適切な対応
 ア 事実関係を迅速かつ正確に確認する。
【パワハラが確認できた場合】
 イ 速やかに被害者に対する配慮のための措置を適正に行う。
 ウ 行為者に対する措置を適正に行う。
 エ 改めてパワハラに関する方針を周知・啓発する等の再発防止に向けた措置を講ずる
  (※パワハラが確認できなかった場合も同様)。
④ その他
 ア 相談者・行為者等のプライバシー保護のために必要な措置を講ずる+その旨を周知
 イ パワハラの相談をしたこと、事実関係の確認等に協力したこと等を理由として、解雇その他不利益な取扱いをされない旨を定める+周知・啓発

2 労災の認定基準への追加
(1)労働者が精神障害を発症した場合に、その精神障害を労災として認定できるかを判断するための基準を厚労省が定めており、その中に、業務上の「具体的出来事」ごとに、(ストレスの強度を)「強」「中」「弱」と判断する具体例等を表形式でまとめた「業務による心理的負荷評価表」というものがあります。
 これまでは、パワハラに該当するか否かに拘わらず、「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」の出来事で評価されていましたが、今般、新しく「具体的出来事」に「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」が追加され、(ストレスの強度を)「強」「中」「弱」と判断する具体例等が示されました。

(2)「強」の具体例 

 ① 上司等から、治療を要する程度の暴行等の身体的攻撃を受けた場合
 ② 上司等から、暴行等の身体的攻撃を執拗に受けた場合
 ③ 上司等による次のような精神的攻撃が執拗に行われた場合
 人格や人間性を否定するような、業務上明らかに必要性がない又は業務の目的を大きく逸脱した精神的攻撃
 必要以上に長時間にわたる厳しい叱責、他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責など、態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える精神的攻撃
 ④ 心理的負荷としては「中」程度の身体的攻撃、精神的攻撃等を受けた場合であって、会社に相談しても適切な対応がなく、改善されなかった場合

 この「強」の具体例に事実関係が合致すると、その出来事だけで「業務による強い心理的負荷が認められる」という要件を満たし、他に強度の「業務以外の心理的負荷」や「個体側要因」が認められる等の特別の事情がない限り、労災認定されることとなります。
特に④に注意が必要です。「中」の具体例は、「強」の具体例の②③に挙げた行為が「反復・継続していない場合」であり、かなり広範なところ、会社の事後対応が不適切であれば、「強」に繰り上がることになるからです。

以上

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