判例・事例

AI等の新技術と労働~労政審報告書の概要~

2019年8月5日 その他の事例・判例


本年6月に労働政策審議会労働政策基本部会より出された報告書「~働く人がAI等の新技術を主体的に活かし、豊かな将来を実現するために~」の概要をご紹介したいと思います。

同報告書は、「1.質の高い労働の実現のためのAI等の活用」として、

(1)人口減少の中でのAI等の積極的な導入の必要性 を訴えた上で、

(2)就業構造の変化に対応したAI等の導入
・2020年代後半以降、新技術の活用で生産職・事務職が過剰となる一方で、技術革新をリードする専門職が不足する推計がある。
・今後、職業のミスマッチの拡大を防ぎつつ、介護職員等の職種における人手不足・労働者の心身の負担等の課題を解消していくためには、技術革新への対応に必要な教育訓練を受けられるようにするとともに、AI等の活用を通じ省力化を進め、人手不足に対応することや、労働時間の短縮・危険を伴う業務の安全性の向上により快適な職場環境を実現することなどが求められる。

(3)イノベーションによる産業構造の変化と雇用への影響
・今後、AI等により生まれるイノベーションにより、産業構造が変わり、既存産業の在り方が大きく変化するとともに、新産業が創出される可能性も指摘されている。このような変化が雇用に与える影響の全体像について、現時点で正確に見通すことは困難であるものの、技術革新により全体的な人手不足傾向は緩和される中で、職業のミスマッチの未然防止や解消が課題となっていく可能性は現れている、としています。

次に、「2.AI等の普及により求められる働き方の変化」について、

(1)労働環境の変化への対応方針の協議
・AI等の活用に伴い、いかなるスキルが重要(になる)かといった点については、労使間で認識の違いも見られる。過去の対応を参考に、AI等を導入する方針を決定する際は、導入による賃金等の労働条件や労働環境の改善、導入に必要な教育訓練など労働者にとって必要な取組を労使のコミュニケーションを図りながら進めていくことが重要となる。
・AI等に業務が代替される労働者への対応が重要な課題となることから、企業においてAI等の導入が具体的に進む段階では、人事労務部門の関与・AIリテラシーの向上が求められる。
・管理職等も含めて幅広い職種・役職の業務が代替される可能性があり、また労働組合組織率が低下していることから、技術革新が進展する中における労使間のコミュニケーションの在り方について改めて議論を深める必要がある。

(2)AI等との協働に必要なスキル
・日本ではAIが導入された際の業務への影響を軽微と考えている傾向がうかがえる。社会全体でAI等による仕事の変化に対し、必要なスキルを意識しつつ備えることが重要である。
・AI等を活用しようとする職場では、例えば、AI等をどのように業務に活用するかを検討し、実際に業務に組み込んでいくためのより高度なスキルなどが必要になる。
・AI等が進展しても、課題設定、インタラクティブな対応、新しい発想、最終的な価値判断など、人間らしい又は人間にしかできない業務は残るし、機械により代替可能なタスクでも、人間が行うこと自体が付加価値と捉えられることも考えられる。その前提として、チャレンジ精神、洞察力等の人間的資質やコミュニケーション能力等の対人関係能力等を高めていくことも課題となる。
・AI等を使いこなすスキルや人間にしかできない質の高いサービスを提供するスキルについて、適切な評価がなされ、報酬や昇進などに反映されていくことが期待される。

(3)スキルアップ・キャリアチェンジに向けた支援
・(労働者には)タスクの変化や、自分のスキル・適性と各職種に必要なスキルとのギャップに気づき、自発的にスキルアップ・キャリアチェンジを目指すことが求められる。気づきを促すため、職業、スキル、教育訓練等の情報を広く見える化することが必要であり、政府が基盤となる情報システムの整備等に取り組むことが求められる。教育訓練、学校教育の在り方も変える必要がある。
・企業においても教育訓練の在り方について検討することが求められる。

(4)AI等の活用が進む中での労働者への支援
・教育訓練機会の提供、キャリア形成への支援等を行っても、AI等に対応できない労働者を社会全体で支えていくため、就労支援等の自立支援や生活保障といったセーフティネットの在り方につき、議論が深められることが期待される、とし、最後に、

3.働く現場でAI等が適切に活用されるための課題」として、以下の4点を挙げています。

(1)労働者のプライバシーの保護や情報セキュリティの確保

(2)AIによる判断に関する企業の責任・倫理:AIに学習させるデータやアルゴリズムにはバイアスが含まれている可能性があるため。人事労務分野等においてAIをどのように活用すべきかを労使始め関係者間で協議すること、AIによって行われた業務の処理過程や判断理由等が倫理的に妥当であり、説明可能か等を検証すること等が必要である。

(3)円滑な労働移動の実現や新しい働き方への対応:転職ニーズが高まり、企業の側でも必要な人材を確保する必要も生じるため。転職が不利にならない制度、雇用類似の働き方に関する保護等の在り方についても検討する必要がある。

(4)AI等がもたらす時代の変化を見据えた政労使のコミュニケーションの重要性:変化の中で、良質な雇用機会をどのように確保していくかが重要な課題となり、業種・産業・地域ごと、あるいは社会全体で、変化が差し迫る前にビジョンを固めていくことが必要となる。

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