判例・事例

公益通報者保護法の改正について

2020年7月13日 その他の事例・判例


 本年6月に公益通報者保護法の一部改正法が成立、公布されました。施行日は、公布の日(2020年6月12日)から2年以内で、今後政令により定められます。
 今回は、この改正の概要に関し、ご紹介したいと思います。

1 公益通報者保護法とは
 公益通報者保護法は、一定の要件を満たす内部告発を「公益通報」として整理し、
公益通報をしたことを理由とする公益通報者の解雇の無効及び不利益な取扱いの禁止等、並びに公益通報に関し事業者及び行政機関がとるべき措置等を定める法律です。
公益通報者を保護することで、公益を図るための内部告発を確保し、企業不祥事による国民の被害拡大を防ぐことを目的としています。

2 公益通報とは
 内部告発が「公益通報」として同法の保護を受けるためには、ⅰ通報者、ⅱ通報の目的、ⅲ通報の内容、ⅳ通報先(大きくは、ア)当該企業・当該企業が定めた外部窓口、イ)権限を有する行政機関、ウ)報道機関等)、ⅴ通報先ごとの条件(通報先により必要とされる条件〔一定の裏付けがあることや、当該通報先に通報する必要性等〕が異なり、内部に留まるアが一番ハードルが低く、ウが一番ハードルが高い)の点で、所定の要件を満たす必要があります。

3 今回の改正の概要
(1)事業者自ら不正を是正しやすくするとともに、安心して通報を行いやすくするために
➀事業者に対し、
・公益通報対応業務(受付、内部調査、是正措置)従事者を定めること
・内部通報に適切に対応するために必要な体制の整備等(窓口設定、調査、是正措置等。具体的な内容は追って指針で定められる予定)
を義務付け(※従業員300人以下の中小事業者は努力義務)。
②➀の実効性確保のために行政措置(助言・指導、勧告及び勧告に従わない場合の公表)を導入
③公益通報対応業務従事者等に対し、通報者を特定させる情報の守秘を義務付け(刑事罰あり)

(2)行政機関等への通報を行いやすくするために
④権限を有する行政機関への通報条件を追加
氏名、通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると考える理由等を記載した書面を提出する場合には、「信ずるに足りる相当の理由」(一定の裏付けの有無)を問わない。
⑤報道機関等への通報の条件を追加
・内部通報をすれば企業側が通報者を特定される情報を洩らす可能性が高い場合
・(生命・身体だけでなく)財産に対する損害(ただし、回復不能又は著しく多数の個人における多額の損害に限定)が発生し、又は発生する急迫した危険がある可能性が高い場合
を追加。

(3)通報者がより保護されやすくするために
⑥保護される人(通報者)の拡大
 退職者(退職後1年以内)や役員(ただし、社外への通報の場合は原則として事前に調査是正措置をとることに努めたことが必要)を追加
⑦保護される通報(内容)の拡大
 刑事罰の対象となる事実のみであったところ、行政罰の対象となる事実も追加
⑧通報に伴う損害賠償の制限規定を追加
事業者は、公益通報によって損害を受けたことを理由として、公益通報者に対して賠償を請求することができないことを明文化。

4 コメント
 特に義務付けの対象である従業員300人を超える企業は、施行日までに➀の公益通報対応業務従事者の選定および内部通報に適切に対応するために必要な体制の整備等を行う必要があります。
 また、「公益通報」を理由とする解雇や懲戒処分等は無効とされるところ、今回の改正で「公益通報」として保護される範囲が拡大された(この点は企業規模を問いません)、つまり内部告発を理由とする解雇や懲戒処分等が無効とされる範囲が広くなることには、従業員300人以下の中小企業であっても留意が必要です。

以 上

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