判例・事例

労使紛争、労働組合にどう向き合うか~労使紛争よもやま話

2016年1月31日 労組・団体交渉よもやま話


1 上場している大企業とは異なり、中小企業は労働組合もなく、団体交渉とは無縁な会社も多い。 しかし、近年は、いざトラブルになると地域合同労組(よくユニオンとも呼ばれる)に一人で加入し、会社に団体交渉を申し入れてくる例が多い。いわゆる一人組合だ。いきなり労働組合からFAXが送り付けられ、慌ててどうしたらよいか分からず難儀した経験をお持ちの経営者も少なくないと思う。今まで経験した団体交渉や、労使紛争から感じ たことを述べてみたい。

2 労働組合にもいくつかの潮流がある。連合、全労連、全労協等よく知られたメジャーな上部団体(ナショナルセンター)に所属する企業別労組や上部団体に所属する地域(合同)労組もある。最近、企業経営者を悩ませているのは、特定の上部団体に属さない独立系の労組だ。独立系の労組にも様々な傾向のものがあるが、緩やかな連合体を作っている例もある。
そして、この独立系の地域合同労組の中には暴力事件を引き起こしたり、過激な争議行為を行うものがある。会社側の人間を殴って刑事事件を起こしたり、社長の自宅や得意先に街宣車で押し掛け、会社や社長を誹謗中傷するビラを会社、得意先の周辺や駅ターミナル、社長の自宅周辺に配布する組合もある。また、会社の外注業者に「協力」を求め、会社の業務を妨害する組合もある。そのような違法な争議行動に対しては、迅速に断固とした対応をする必要があるし、組合の性格や行動によっては、警察とも連絡を取りながら対応することもある。

3 しかし、注意は必要だが、労組を恐れすぎる必要はない。一口に地域合同労組、あるいは一般労組、産別組合といっても組合の性格及び担当者によって、その対応は随分と違いがある。問題のある組合、担当者もいるが、話し合いを尽くせば、双方が受け入れられる妥協点が見いだせることも多い。妥結に至る過程で、激しいやり取りや、決裂を覚悟するような場面もあるが、毅然と誠実な姿勢で交渉すれば、多くの場合妥当な解決ができる。

 もちろん、どうしても妥協できない場合もあるだろう。非違行為をした労働者の解雇事件で、相手がどうしても職場復帰を求める場合や、不当な言いがかりに近いセクハラ、パワハラの主張、要求を入れると他の社員の労働条件にも影響を及ぼすため妥協が困難な場合、労組が多額の解決金を要求し譲らない場合等々。妥協点が見いだせない場合は、会社が、労働委員会から労働者の救済命令を出されたり、訴訟になった場合に不利な展開とならないように、誠実に毅然と交渉に臨んで粛々と決裂する場合もある。ただ、労働者の側に問題がある場合には、組合の方もそれは理解しており、交渉の途中で組合と労働者本人の間に矛盾、対立が生じて交渉は事実上終了する例も経験するし、場合によっては、組合が労働者を除名するような場合もある。

4 一方で、会社の側に弱点がある場合も少なくない。だからこそ労組が介入するような紛争になるわけだが、とりわけ中小企業の場合は、労働法を完全に遵守することは、しようと思ってもなかなか難しい現状がある。労働時間や残業代などはその典型例だ。難しい問題だが、可能な範囲で改めるべきところは改め、妥当な金額、支払い条件で解決を図ることもある。そして、同様な問題が生じないように今後の紛争予防策を構築する。改めるべきだが一度には改善できないところは、現状を従業員に適切に説明しながら徐々に改善するしかない。経営者が真摯に話せば、多くの従業員は理解をしてくれる。労組対応とともに、労基署対応が必要な場合もある。

 他の従業員も、会社がどのような姿勢で交渉に臨んでいるのか、言葉には出さずとも注視している。たとえ紛争が発生したとしても、会社の対応次第では、逆に従業員との信頼関係が強まる場合もある。

5 以前担当した事件で、ある優良企業で社員を中途採用したものの、採用後、執拗に過大な要求を繰り返すようになり、ほかの社員との関係も悪くなったため、性急に解雇をしてしまった事件がある。私が担当する以前に、会社が、十分な根拠もなく、不適切な対応をしてしまったため、過激な合同労組が介入し、屈辱的といってもよい労働協約を締結させられて、引き続き会社のそれまでの不適切な対応を追及する団交が続いていた。団体交渉を正常化させ、適切な対応をすることで、結局その社員は退職することとなったが、対応を間違うと会社が大きな傷を負うことにもなる。

 その紛争を解決後、社内の労使関係は正常化し、現在は海外への事業展開をはじめ、事業を発展させている。たとえ過激な合同労組が介入してきても、恐れず、適切に対応すれば、必ず解決できるし、会社を発展させることもできる。

 労組から団体交渉の申し入れ書が届いても、恐れず、悩まず、相談してほしい。

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