判例・事例

緊急事態宣言に基づく休業要請と従業員に対する休業手当

2020年4月20日 賃金に関する事例・判例


1 緊急事態宣言に基づく休業要請

 2020年1月から世界中に蔓延し始めた新型コロナウイルスにより、日本でも2020年4月7日に、内閣総理大臣から緊急事態宣言(新型インフルエンザ特別措置法(以下「法」)32条1項)が発出されました。これを受けて知事が施設の使用制限の要請を行いました。大阪府の場合はこちらをご参照下さい(大阪府 施設の使用制限の要請等)。対象となった施設を用いる事業者は、要請に従わざるを得ませんが、この場合、従業員に対する休業手当(労働基準法26条)を支払う必要があるのかについて、検討してみます。

2 休業手当

(休業手当)
第二十六条 使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。

 事業者が休業手当の支払義務を負うのは、労働基準法26条の「使用者の責めに帰すべき事由」がある場合です。天災等の不可抗力により事業が継続できない場合には、休業手当の支払が不要です。一方で、材料の入荷が遅れたために操業を停止せざるを得ない場合は、休業手当が必要とされています。※注 事業者側の事情に過ぎないのか又は不可抗力と言えるのかが、休業手当の要否を分ける基準となります。
国が発出した緊急事態宣言を受けて、各都道府県知事が施設使用の休止要請等の具体的な協力を要請することとなります(法24条9項、45条2項3項)。この休止要請は法的な強制力はない「要請」にとどまるとはいえ、要請に従わない場合は個別具体的な要請(法45条2項)が行われます。この要請に応じない場合は休止指示及び公表(法45条3項)がなされます。個別の休止要請に従わなかった事業者として公表されると、新型コロナウイルスの蔓延に協力をしなかった事業者として社会的評価は地に落ちてしまい、それが原因で事業継続に大きな悪影響が及びます。とすれば、緊急事態宣言下での知事からの要請(法24条9項、法45条2項)に基づき事業所を閉鎖する場合には、事業者としてはやむを得ない面があります。
 もっとも、事業所の使用を休止したとしても、休業を回避するための具体的な努力、例えば、他の事業所の応援に行くことができる、在宅ワークで仕事ができる等というように事業所休止があったとしても別の方法で業務に従事できるような場合は、天災のような不可抗力とまではいえず、休業手当の支払義務が発生する場合があります。

※注 不当に解雇をして働かせない等のように労働者が働くことができないことについて事業者に故意・過失がある場合は、休業手当の60%ではなく、100%の賃金支払義務があることには注意して下さい。

 この点については、厚生労働省のQAもご参照ください。

【厚労省 新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)】

 同QAでは、「不可抗力による休業と言えるためには、①その原因が事業の外部より発生した事故であること、 ②事業主が通常の経営者としての最大の注意を尽くしてもなお避けることができない事故であることという要素をいずれも満たす必要があります。」とされています。休業要請があったからといって直ちに休業手当の支払義務がないとされるわけではなく、施設の使用制限が出たとしても休業を回避するような具体的な努力を尽くす必要があるということ、尽くしてもなお休業を回避できないような場合に限って、休業手当の支払が不要とされていることに留意してください。

3 まとめ

実務上は、緊急事態宣言が長引くことを考えると、労働基準法26条の要件に該当するかどうかにかかわらず、従業員を休業させたうえで60%以上の賃金を払うこととしつつ、雇用調整助成金を活用するという対応が有用です。是非ご活用下さい。

【厚労省 雇用調整助成金】

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