間接差別を考える~AGCグリーンテック(間接差別)事件・東京地裁令和6年5月13日判決のポイント
2024年8月28日 賃金に関する事例・判例
1 事案
本件事件では,会社が総合職のみに本件社宅制度(注¹)を適用し,一般職には認めていないことが直接的または間接的な性差別として違法とならないかが争点となりました。会社は,総合職を住居の移転を伴う配置転換に応じることができる従業員と定義していましたが,そのほとんどは営業職の男性でした。一方、一般職は、ほとんど女性でした。
(注¹)会社が従業員の居住する賃貸住宅の借主となって賃料等を全額支払い、その一部を当該従業員の賃金から控除し、その余を会社が負担する制度
2 判決の結論
判決は、総合職にのみに適用する本件社宅制度は、性別を直接の理由とする差別的取り扱いではないから均等法6条2号、規則1条4号(直接差別)に違反するとはいえず、また均等法7条、規則2条2号(間接差別)は、間接差別となる対象措置として「住宅の貸与」を規定していないので同条にも抵触はしないとしましたが、本件社宅制度は、均等法の趣旨に照らし、間接差別に該当するものであり、不法行為が成立するとしました(間接差別に該当する場合は、民法90条違反や不法行為の成否の問題が生じるとしつつ、本件では公序良俗違反は否定しました)。そして、被告会社は、社宅制度が適用された場合の負担額と原告に支給していた住宅手当の差額等の損害を賠償する義務があるとしました。
3 裁判所の考え方
判決は、均等法の趣旨に照らし、〔1〕性別以外の事由を要件とする措置であって,〔2〕他の性の構成員と比較して,一方の性の構成員に相当程度の不利益を与えるものを,〔3〕合理的な理由がないときに講ずること(以下「間接差別」という。)は,均等法施行規則に規定するもの以外にも存在し得るのであって,均等法7条には抵触しないとしても,民法等の一般法理(公序良俗違反(民法90条)、不法行為)に照らし違法とされるべき場合は想定されるとしています。
そして、間接差別該当性判断の考慮要素として、措置の要件を満たす男性及び女性の比率,当該措置の具体的な内容,業務遂行上の必要性,雇用管理上の必要性その他一切の事情を考慮し、上記〔2〕一方の性の構成員に相当程度の不利益を与えるか、〔3〕合理的な理由があるかを判断するべきとしています。
4 本件
本件の場合、社宅制度の利用という福利厚生の措置を受けるために転勤に応じることができること(総合職であること)を要件とすることは、事実上総合職の大部分を占める男性従業員のみに社宅制度を適用し、女性従業員に相当程度の不利益を与えているものであり、たとえ総合職の大半を占める営業職には女性の応募が少なく男性の比率が高い点を考慮したとしても、現実には社宅制度が転勤の事実、現実的可能性の有無を問わずに運用されている実態に照らすと総合職にのみ社宅制度を適用することに合理的理由がなく、均等法の趣旨に照らし、間接差別に該当するとしました。
5 実務上の留意点
本件は、事実上男性がほとんどを占める要件で総合職を定義したうえで社宅制度の利用を総合職に限定し、社宅制度の内容、運用も合理性に疑問があるとされたことから間接差別に当たるとされました。人事管理・雇用管理上、現実に転勤の可能性がある職種に社宅制度を適用するのであれば、たとえ当該職種に女性の応募が少ないとしても、均等法の趣旨には反しないと思われますが、制度設計や運用の合理性に疑念が持たれないようにする必要があります。
雇用管理区分の設計において、特定の職種のキャリアシステム上の必要性・有用性、採用競争上の優位性を確保するために、特定の雇用管理区分にのみ処遇上のメリットを与える場合がありますが、上記のように均等法の間接差別に当たらないように注意するとともに、パート有期雇用法の均衡均等原則等の法令に違反しないように注意が必要です。
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