判例・事例

労災保険法改正 ~兼業・副業への対応~

2020年9月3日 労働災害に関する事例・判例


 政府が兼業・副業の促進を図っていることもあり、兼業・副業を認める企業も徐々に増えてきています。
 複数の会社に雇用されている労働者の方が脳・心臓疾患や精神疾患等を発症した場合、労災認定はどのように行うのでしょうか。また給付額はどうなるのでしょうか。
 今般、労災保険法が改正され、従前の扱いから大きく変更されましたので、本号では、そのポイントをご紹介したいと思います。

1 改正内容
【ケース】
A社とB社に雇用されているXさんが、本年11月に適応障害を発症し、労災申請。
 @A社:正社員、月給25万円   @B社:アルバイト、月給10万円

Point1 対象範囲の拡大
【これまで】A社の負荷(労働時間、その他のストレス要因)だけ/B社の負荷だけを個別に評価し、労災認定できるかを判断していました。
   ↓
【改正後】新たに「複数業務要因災害」という類型を設け、A社の負荷だけ/B社の負荷だけを個別に評価するのでは、発症との間の因果関係が認められない場合でも、2社の業務上の負荷を総合的に評価して、同因果関係が認められる場合には、労災認定されることとなりました。
⇒労災認定される範囲が広がります。

Point2 保険給付額の増加(@休業補償給付等)
【これまで】災害が発生した勤務先の賃金額のみを基礎に算定されていました。
そのため、例えば、B社におけるパワハラが原因で発症した場合、月10万円を基礎に算定するため、保険給付額が極めて低廉になるという問題がありました。
   ↓
【改正後】(一社の負荷が原因の場合でも)すべての勤務先の賃金額を合算した額を基礎に算定されることになりました。
そのため、同様にB社におけるパワハラが発生した場合でも、A社の賃金額をも合算した月35万円を基礎に算定されます。
なお、新設された複数業務要因災害や、通勤災害の場合も同様です。
⇒保険給付額が増加します。

★補足★
・上記改正内容は、本年9月1日以降にけが、病気等をした場合に適用されます。
・原則けが、病気等をした時点で、複数の会社で雇用されている労働者(厳密には特別加入の場合も対象になります。以下「複数就業者」といいます)の方が対象ですが、同時点で既に退職している場合でも、その病気等の原因(負荷等)が、複数の会社で雇用されている際に存在していた場合には、例外的に対象となります。

2 コメント
 このように、複数就業者の方にとって、今回の改正は非常に朗報ですが、使用者側としては今回の改正、特に「複数業務要因災害」の新設により、会社が労災民事(損害賠償)責任を負う範囲が広がらないか、非常に気になるところです。
 この点、労政審の「複数就業者にかかる労災保険給付等について(報告)」では、複数業務要因災害の場合、「それぞれの就業先の負荷のみでは業務と疾病等との間に因果関係が認められないことから、いずれの就業先も労働基準法上の労災補償責任を負わない」とされています。労災民事責任との関係でも、同様に業務従事と疾病等との間の相当因果関係が存することが必要であることから、基本的には今回の改正は労災民事責任の範囲を広げるものではない(複数業務要因災害の場合、いずれの就業先も労災民事責任を負わない)と思われますが、今後の裁判例の流れを注視する必要があります。
 なお、副業・兼業に関しては、「労働時間管理の在り方」についても、現在労政審で検討されているところです。長時間労働を原因とする労災との関係でもこの点は非常に重要ですので、内容が固まりましたら、またご紹介したいと思います。

以上

PAGE TOP