判例・事例

職場ストレスと労災認定~その1~労基の認定基準

2012年4月28日 労働災害に関する事例・判例


 最近、「メンタルヘルス」という言葉をよく聞くようになりました。

 また、仕事が原因でうつ病になった、あるいは自殺をしたと、労働者やその遺族から主張されることも珍しくなくなってきました。

 ここでは、職場環境や仕事によるストレスが原因でうつ病等の精神障害を発病した場合の労災認定について検討してみようと思います。

1 「心理的負荷による精神障害の認定基準」について

 労災保険給付を受けるためには、その精神障害が「業務上の」疾病であると認められることが必要です。その判断を行う際の基準を定めたものが、「心理的負荷による精神障害の認定基準」(平成23年12月26日付け基発1226第1号。以下、「認定基準」といいます。なお、この認定基準が定められるまでは、精神障害についても11年指針―「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針」平成11年9月14日付け基発第544号―が適用されていました)になります。

 「業務上の」疾病であるといえるか否かの認定は、この認定基準に沿って行われますので、認定基準の理解は非常に重要となります。

 そこで、まずは、この認定基準の中身について、見ていきたいと思います。

(1)「ストレス-脆弱性理論」に立脚

 認定基準も、11年指針と同様、「ストレス―脆弱性理論」というものに立脚しています。

 この「ストレス―脆弱性理論」とは、外部からのストレスの強弱とそのストレスを受ける個人の対応力の強弱との関係で精神障害が生じるかどうかが決まるという考え方で、外部からのストレスが大きくても、そのストレスを受ける側の個人の対応力が強ければ精神障害は生じないし、逆に外部からのストレスが小さくても受ける側の個人の対応力が弱ければ、精神障害が生じることもあるとされています。

(2)認定基準における判断の概要

 ア 認定要件について

 精神障害が「業務上の」疾病であると認められるために必要となる要件は、次の3つです。

 ⅰ) 認定基準の対象となる精神障害を発病していること

 ⅱ) 認定基準の対象となる精神障害の発病前おおむね6ヶ月の間に業務による強いストレスが認められること

 ⅲ) 業務以外のストレスや個人の側の要因(正常な範囲を超えるうつ病親和的な性格傾向など)により発病したとは認められないこと 

 イ 要件ⅱの判断について

 (ア)別表1の「特別な出来事」に該当する出来事がある場合

 認定基準別表1の「特別な出来事」に該当する出来事が認められる場合には、ストレスの総合評価は「強」とされ、(総合評価が「強」の場合にのみ)ⅱの要件を満たすものとされます。

 (イ)別表1の「特別な出来事」に該当する出来事がない場合

 (1) まず、その出来事が別表1の「具体的出来事」のどれに該当するか、該当するものがない場合にはどれに近いかを判断し、

 (2) 次に、「具体的出来事」欄の具体例の中に、当てはまるものがある場合にはその強弱で評価し、当てはまるものがない場合には、「心理的負荷の総合評価の視点」の欄に記載されている事項を考慮し、個々の事案ごとにその強弱を判断します。

  (3) 出来事が複数ある場合の評価については、

  その複数の出来事が関連して生じた場合には、原則として最初の出来事を別表1に当てはめ、関連して生じたそれぞれの出来事は出来事後の状況とみなし、全体の評価をします。

  関連しない出来事が複数生じた場合には、出来事の数や各出来事の内容、時間的な近接の程度を考慮して全体の評価をします。ちなみに、認定基準では、
・強+中ないし弱=強   
中+中=強or中
といった目安も示されています。

 (ウ)なお、認定基準には、

 ○長時間労働がある場合の評価方法(たとえば、発病日の直前の1ヶ月間におおむね160時間を超える時間外労働を行った場合等には、これのみで心理的負荷の総合評価を「強」とするなど)、                             

 ○セクハラやパワハラなど出来事が繰り返し行われる場合の評価期間の特例(発病の6か月よりも前にそれが開始されている場合でも、発病前6ヶ月以内の期間にも継続しているときは、開始時からのすべての行為を評価の対象とする)

  ○既往症(業務以外のストレスや業務による弱い―上に述べた基準で「強」評価できない―ストレスにより発症し、治療が必要な精神障害)が悪化した場合の判断方法(別表1の「特別な出来事」に該当する出来事があり、その後おおむね6ヶ月以内に対象疾病が自然経過を超えて著しく悪化したと医学的に認められる場合には、業務上の疾病として取り扱う)

についても定められています。

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