判例・事例

不合理な労働条件の相違を禁止する労契法20条に関する裁判例

2018年3月1日 労働条件に関する事例・判例


はじめに
 近時、期間の定めがあることによる不合理な労働条件の相違を禁止する労契法20条に関する裁判例が相次いで出されています。
 その中で、今回は、住居手当に関する相違を「不合理」と認め、結論として、正社員の6割相当額の損害賠償を認めた日本郵便事件(東京地裁判決)をご紹介したいと思います。
なお本件では、年末年始勤務手当等他の労働条件の相違についても問題とされ、一部「不合理」と判断されていますが、今回は(新人事制度導入以降の)住居手当に関連する部分に絞ってご紹介致します。

1 事案の概要
 Xらは、配達等の外務事務または窓口業務等の内務事務に従事するY社の時給制契約社員(有期)です。
Xら時給制契約社員は、外務事務及び内務事務のうち「特定の定型業務」に担当業務が限定されており、また職場及び職務内容を限定して採用されているため、正社員のような人事異動等は行われていませんでした。
他方、Y社の正社員は、新人事制度の下では、総合職、地域基幹職及び新一般職の各コースに分かれていたところ、このうち新一般職は、担当業務が同「標準的な業務」に限定されており、昇任昇格は予定されておらず、配置転換は転居を伴わない範囲でその可能性があるにとどまるなど、異動等の範囲が限定されており、この点で正社員の中で最も時給制契約社員に近い存在でした。
  Y社では、一定の要件を満たす正社員に対し住居手当を支給していましたが、時給制契約社員には支給していませんでした。
  本件においては、この相違が労契法20条に違反するとして争われました。

2 裁判所の判断
  裁判所は、まず、Xらの比較対象とするべき正社員は、担当業務や異動等の範囲が限定されている点で類似する新一般職とするのが相当であるとした上で、両者を比較し、両者の間には、職務の内容及び配置の変更の範囲に一定の相違があると認められると評価しました。
  そのうえで、住居手当については、「新一般職に対しては,転居を伴う可能性のある人事異動等が予定されていないにもかかわらず,住居手当が支給されている」ことに着目し、同じく転居を伴う配置転換等のない時給制契約社員に対して住居手当が全く支給されていないことは、(正社員に対して住宅費の援助をすることで有為な人材の獲得、定着を図ることの)人事施策上の合理性等の事情を考慮に入れても、合理的な理由のある相違ということはできないとしました。
  ただし、裁判所は、正社員に対する住居手当の給付は、正社員の福利厚生を図り、長期的な勤務に対する動機付けを行うという意味も有することを考慮し、両者の手当額が同額でなければ不合理であるとまではしませんでした。あくまでも時給制契約社員に対して「全く支給されていない」点が不合理であるとしたものです。
  そして、このような場合の損害としては、本来は、不合理とされた手当等の額と、不合理とはならないように種々の要素を踏まえて決定された手当等の額との差額をもって損害と認めるべきであるが、「後者の手当額を証拠に基づき具体的に認定することは,…極めて困難である」ことから、今回の住居手当についても、「民事訴訟法248条に従い,…相当な損害額を認定すべきものである」として、結論としては、正社員の支給要件を適用して認められるべき住居手当の6割相当額を損害と認めました。

3 検討
  本判決は東京地裁の一判決であり、まだこれで判断が固まっているというものではありません。
 しかし、転居を伴う可能性のある人事異動等が予定されていない正社員にも住居手当を支給している場合に、かかる人事異動等がない点で同じである有期契約労働者に対して全く住居手当を支給しないことは「不合理」であるとして、正社員の6割相当額の損害賠償が認められたことには注意を要します。例えば、事業場が1つしかなく、転居を伴う可能性のある人事異動等が想定されない会社において、正社員のみに住居手当を支給している場合には、同様に判断されるリスクがあるからです。この点で、本判決の影響は大きいといえるでしょう。
なお、報道によれば、本年2月21日に、同じ日本郵便にかかる大阪地裁の判決が出され、住居手当につき(6割)ではなく同額の損害を認めたようです。

以上

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