判例・事例

判例紹介~職種限定合意の成立を否定しつつも中途採用者に対する配転命令が権利濫用として無効!?~

2022年3月3日 労働条件に関する事例・判例


今回は、職種限定合意の成立を否定しつつも、中途採用者に対する配転命令が権利濫用として無効とされた判例(令和3年1月20日名古屋高裁判決)をご紹介します。

1 事案の概要
Yと期間の定めのない雇用契約を締結し,運行管理業務・配車業務に従事していたXが,Yから,本社倉庫部門において倉庫業務に従事するよう配置転換命令(以下「本件配転命令」という。)を受けたことに対し,本件配転命令は無効であると主張して,Yの本社倉庫部門において勤務する雇用契約上の義務を負わないことの確認を求めた事案。

2 判決の概要
(1)職業限定の合意の有無
 ア 職種限定の合意の有無
「本件では職種限定合意があることを直接的に裏付ける雇用契約書,労働条件通知書などの書面はないこと,求人票…をみても採用後に運行管理業務以外の業務に従事することがないという趣旨の記載は見当たらないこと,…書面…には,…Xが従事する業務はこれらに限られる旨の文言の記載はないし,…Yの就業規則…には,職種を限定した従業員の存在を前提とした規定はなく,他方で,業務の必要により職種の変更があり得ることが規定されていることによれば,XとYとの間において,Xを運行管理業務以外の職種には一切就かせないという趣旨の職種限定の合意が明示又は黙示に成立したことは認められない。」

イ Xの中途採用の経緯
Yにおいて運行管理業務や配車業務を行える人材が不足していたため,…求人していたものであり,…Xは,運行管理者の資格を取得し,複数の会社で運行管理業務や配車業務の経験を有していたところ,これらをYに見込まれ,運行管理業務や配車業務を担当すべき者として中途採用された」
「面接時に、Xは,…前の会社を辞めた理由を尋ねられ,配車業務・運行管理業務をしたかったが,配車業務から夜間点呼業務に異動させられたためと説明をしたところ,課長から夜間点呼業務に異動させることはないとの説明を受け」、「実際,Xは,採用後,直ぐに運行管理者に選任され…ている。」

ウ Xにおける期待
「これらによれば,XがYにおいて運行管理者の資格を活かし,運行管理業務や配車業務に当たっていくことができるとする期待は、合理的なものであって,単なるXの一方的な期待等にとどまるものではなく,Yとの関係において法的保護に値するものといわなければならない。そうすると,Yにおいて,配転に当たっては,Xのこのような期待に対して相応の配慮が求められるものといわなければならない。」

(2)本件配転命令が権利の濫用に当たり無効か(本件配転命令がXに対し、通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものか)
Xに「経済的・生活上の有意な不利益が生じたとはいえない。しかしながら,本件配転命令の配転先である倉庫部門における業務内容は,Xが有する運行管理者として運行管理業務及び配車業務に携わり,培ってきた能力・経験を活かすことができるという…Xの期待に大きく反するものであ」り、「YからXに対して慣れない肉体労働…を命じられる可能性が十分にあることも看過できない。」
「Yを倉庫部門に配転しなければならない必要性があったとしても高いものではなく,かつ,運行管理業務及び配車業務から排除するまでの必要性はなかったことを併せ考慮すると、本件配転命令は,Xに対し,通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものといえる。」

(3)結論
「以上の検討によれば,本件配転命令は,そもそも業務上の必要性がなかったか,仮に業務上の必要性があったとしても高いものではなく,かつ,運行管理業務及び配車業務から排除するまでの必要性もない状況の中で,Yにおいて,運行管理者の資格を活かし,運行管理業務や配車業務に当たっていくことができるとするXの期待に大きく反し,その能力・経験を活かすことのできない倉庫業務に漫然と配転し,Xに通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせたものであるから,本件配転命令は,権利の濫用に当たり無効と解するのが相当である。」

3 コメント
本判決では、職種限定の合意は認められませんでしたが、Xは運行管理者としての資格を有し、採用後も実際にXの運行管理者としての実績や経験はYにおいて活かされており、あえて倉庫業務に配転をするだけの必要性がないにもかかわらず、従来の業務とは全く異なる肉体労働を伴う倉庫業務に配転をしました。これらの事情から、本件配転命令は運行管理業務をすることができるというXの期待に反し、通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものとして権利濫用であると判断されました。

本判決の様に、個々の事案によっては職種限定の合意がなくとも配転命令が権利濫用として無効と判断されるおそれがあります。配転命令の際には、労働者に対し十分な説明を行い、理解を得ることが必要です。対応についてお困りの場合には、お気軽にご相談ください。
                                    以上

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