判例・事例

判例紹介~業務請負契約が偽装請負等の状態にあると判断された例~

2022年5月10日 労働条件に関する事例・判例


今回は、業務請負契約が、偽造請負等の状況にあり、注文会社には偽装請負等の目的があったと判断され、注文会社と業務に従事していた請負会社の従業員との間には労働契約が成立したと判断された東リ事件(大阪高裁令和3年11月4日判決)についてご紹介します。

1 事案の概要
本件は、ビニールタイル等の各種床材、カーペット等の各種床敷物の製造、販売等を目的とするYと業務請負契約(以下「本件業務請負契約」といいます。)を締結した会社(以下「A社」といいます。)の従業員であり、Yの工場で製品の製造業務に従事していた従業員Xらが、Yに対し、Yは偽装請負(違法派遣)による労働者派遣を受け入れたので、労働者派遣法が定める派遣先が派遣労働者に労働契約の申込みをしたものとみなす場合にあたり、Xらがこれに承諾したとして(労働者派遣法40条の6第1項5号)、Yの従業員として地位確認を求めた事案です。

2022.5

2 判決の概要
(1)本件業務請負契約は、偽装請負等の状態にあったか
 「請負人による労働者に対する指揮命令がなく,注文者がその場屋内において労働者に直接具体的な指揮命令をして作業を行わせているような場合には,請負人と注文者との間において請負契約という法形式が採られていたとしても,これを請負契約と評価することができない。労働者派遣と請負との区別については,…「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準を定める告示」(昭和61年労働省告示第37号。平成24年厚生労働省告示第518号による改正後のもの。以下「本件区分基準」という。)が公表されている…。…本件においても,これを参照するのが相当である。」

本件においては…
・作業手順や会議の開催等は、Yの従業員からXらに対して直接具体的な指示があった。また、A社が週間製造日程表を作成するに当たっては、Yの技術スタッフから修正を受けることもあり、「その作業遂行の速度、作業の割り付け、順序を自らの判断で自由に決定することができたと認められない」ことから、①A社は、業務の遂行に関する指示その他管理を自ら行っていたと認めることはできない。
・A会社の社長は、同社の「従業員の労働実態を把握,管理しておらず,不要な残業をなくすことについても,一般的・抽象的な呼びかけをすること以外にA社として現場の実態や個々の従業員の稼働状況に即した具体的な指導を行っていたとは認められない。したがって,A社は,単に労働者の労働時間を形式的に把握していたにすぎず,②労働時間を管理していたとは認めることはできない。」
・A社の従業員が事故を惹起した場合に、A社の社長に伝えられたことや、これに基づいた③従業員の服務規律に関する指示が行われていたとは認められない。また、A社の従業員が有給休暇をとる場合の応援者を手配することは、Yの従業員に連絡することにより行われており、④A社が労働者の配置の決定等を行っていたとは認められない。
・本件業務請負契約の請負代金は定額であり、⑤製品に不具合が生じた場合に一度でもA社がYより法的責任の履行を求められた形跡はないことから、A社が請負契約に基づく法律上の責任を負っていたとは認められない。また、製品の原材料をA社が自ら調達していたということはできず、「A社はYから現場事務所を無償で貸与され、…製造ラインを月額使用料2万円としてYから賃借していた」が、その額の「根拠は不明であり、製造機械の貸与について、修理費の負担については何ら定めがなく、その負担について何ら協議された形跡はなく、Yが修理費の一切を負担していたと認められる。」そのため、⑥A社が「原材料や製造機械を自己の責任や負担で準備し、調達したと評価することはできない。」
・A社には、独自に工程で必要な社員教育を行う能力やノウハウがあったとは認められない。

→以上によれば、A社が本件業務請負契約に基づいてYの工場で行っていた業務は、本件区分基準にいう請負の要件を満たすものということはできない。

(2)Yには偽装請負等の目的があったか否か
労働者派遣法40条の6第1項5号には、「労働者派遣の役務の提供を受ける者に偽装請負等の目的があることが要件とされている。」
「偽装請負等の目的という主観的要件が特に付加された趣旨に照らし、偽装請負等の状態が発生したというだけで,直ちに偽装請負等の目的があったことを推認することは相当ではない。しかしながら,日常的かつ継続的に偽装請負等の状態を続けていたことが認められる場合には,特段の事情がない限り,労働者派遣の役務の提供を受けている法人の代表者又は当該労働者派遣の役務に関する契約の契約締結権限を有する者は,偽装請負等の状態にあることを認識しながら,組織的に偽装請負等の目的で当該役務の提供を受けていたものと推認するのが相当である。」

→本件においては、「Yは,従業員の混在がなくなった後も…工程におけるA社の従業員に対する業務遂行上の具体的な指示を続けるなど,偽装請負等の状態を解消することなく,日常的かつ継続的に偽装請負等の状態を続けていたのであるから,」本件業務請負契約「が解消されるまでの間Yには,偽装請負等の目的があったものと推認することができる。」と判断された。

(3)結論
Yは、「労働派遣法40条の6第1項5号に該当する行為を行い、…同項柱書本文により労働契約の申込みをしたものとみなされ、」これに対してXらは承諾の意思表示をしたことから、XらとYとの間に労働契約(無期契約)が成立したと判断された。

3 コメント
本判決では、本件区分基準に基づいて本件業務契約の業務の実態を検討し、偽装請負状態にあると判断しました。また、日常的かつ継続的に偽装請負等の状態を続けていたことが認められる場合には、特段の事情が無い限り、派遣先が偽装請負等の状態にあることを認識しながら、組織的に偽装請負等の目的で役務の提供を受けていたものと推認することが相当であるとの判断枠組みが示されました。
本来、労働派遣と請負とでは、企業の負うべき責任が異なります(例えば、安全配慮義務違反の責任は、請負では業務遂行上の指揮命令は請負会社が行いますから請負会社が負いますが、派遣の場合は、派遣先企業が業務遂行上の指揮命令を行いますから、派遣先企業も安全配慮義務違反の責任を負うこととなります)。労働者派遣、請負のいずれかに該当するかは、本判決の様に契約形式ではなく実態に即して判断されます。最近では、ソフトウェアの開発で、アジャイル開発(反応や不具合を確認しながら、修正・機能追加を繰り返してゆく開発)における偽装請負の懸念が議論されています。ご判断に迷われる場合には是非ご相談ください。
                                               以上

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