判例・事例

アジャイル開発は偽装請負にあたるのか?

2022年6月8日 労働条件に関する事例・判例


前回は、労働派遣と請負の区別が問題となり、業務請負契約が偽装請負等の状態にあると判断された判例をご紹介いたしました。今回は、最近議論されているアジャイル開発に関する偽装請負の問題についてご紹介いたします。
※前回の記事はこちら

1 アジャイル開発とは
アジャイル開発とは、一般に、開発要件の全体を固めることなく開発に着手し、市場の評価や環境変化を反映して開発途中でも要件の追加や変更を可能とするシステム開発の手法であり、短期間で開発とリリースを繰り返しながら機能を追加してシステムを作り上げていくものです。アジャイル開発の特徴として、発注者側の開発責任者と発注者側及び受注者側の開発担当者は対等な関係の下でそれぞれの役割・専門性に基づいて協働し、自律的に判断して開発業務を進めていきます。

2 アジャイル開発と偽装請負
発注者と受注者との間において請負契約等の形式をとりながら、実態として発注者と受注者の雇用する労働者との間に指揮命令関係がある場合には偽装請負と判断されます。
労働者派遣と請負のいずれに該当するかについては、厚生労働省で「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(以下「37号告示」といいます。)が公表されており、アジャイル開発と偽装請負の問題に関して、37号告示に関する疑義応答集(第3集)が公表されています。

3 偽装請負として判断されないために
(1)基本的考え方
37号告示に関する疑義応答集によると、実態として、発注者と受注者の関係者が対等な関係の下で稼働し、受注者側の開発担当者が自律的に判断して開発業務を行っていると認められる場合であれば、偽装請負と判断されるものではありません。しかし、発注者側の開発責任者や開発担当者が受注者側の開発担当者に対し、直接業務の遂行方法や労働時間等に関する指示を行うなど、指揮命令があると認められるような場合には、偽装請負と判断されることになります。
偽装請負と判断されないために、

・発注者側と受注者側の開発関係者のそれぞれの役割や権限、開発チーム内における業務の進め方等を予め明確にし、発注者と受注者との間で合意をする
・発注者側の開発責任者や双方の開発担当者に対して、アジャイル開発に関する事前研修等を行い、開発担当者が自律的に開発業務を進めるものであるというアジャイル開発の特徴についての認識を共有する

こと等が重要になります。

(2)具体的な対処例
《管理責任者の選任、会議や打合せ等への参加》
会議や打ち合わせなどの全ての機会に管理責任者の同席が求められるものではないものの、受注者側の開発担当者に対して業務の遂行方法や労働時間等に関する指示を行う必要がある場合には、受注者側が管理責任者を選任するなどして受注者自らが指揮命令を行う。
《開発担当者の技術・技能の確認》
受注者側の技術力を判断する一環として、発注者が受注者に対し、受注者が雇用する技術者のシステム開発に関する技術・技能レベルと当該技術・技能に係る経験年数を記載したいわゆる「スキルシート」の提出を求めたとしても、それが個人を特定できるものではなく、発注者がそれによって個々の労働者を指名したり特定の者の就業を拒否するものではないこと。

4 コメント
アジャイル開発は、発注者と受注者が密に連携・連絡しながらシステム開発を進めていくものですが、当該連携や連絡が直接の指揮命令と認められるような場合には偽装請負と判断されるおそれがあります。そのような事態を防ぐためには、発注者と受注者間、そして双方の企業内でアジャイル開発の遂行方法や内容を十分に認識し共有することが重要になります。
アジャイル開発の導入について、法的な疑問をお持ちの際は是非ご相談ください。
                                               以上

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