判例・事例

メディカルアライアンス事件(東京地裁平成29年1月25日判決)

2017年7月6日 労働時間に関する事例・判例


1、はじめに
 今回は、労働者が電話当番に従事していた時間を労働時間と認定したメディカルアライアンス事件(東京地裁平成29年1月25日判決)についてご紹介します。

2、事案の概要
被告Y社は、医療施設等に対し、医院経営のコンサルティング業務等を行っている会社であり、原告Xらは、Y社に雇用されていた労働者です。
Xらが業務に従事していた本件クリニックの業務時間及び従業員の就業時間は、午前10時から午後8時でした。ただし、本件クリニックは24時間対応を謳い文句にして、24時間受け付けのフリーダイヤルをホームページに載せており、業務時間外である午後8時から翌日の午前10時までの間は電話当番担当者を配置して、顧客からの電話相談等に対応していました。
電話当番の担当者は、本件クリニックの業務時間外である午後8時から翌日午前10時まで全国の顧客からの問合せ、手術の申込み、手術後のアフターケアに関する問合せ等に対応するため、シフトを組んで従業員に電話当番を割り振り、携帯電話を貸与し、午後8時から翌日午前10時までの時間帯における顧客から本件クリニックへの電話を、その携帯電話若しくは従業員の私物の携帯電話に転送させて、電話対応をさせていました。
電話当番に従事していた時間が労基法上の労働時間に該当するか否かが争点となりました。

3、判決の概要
 ⑴一般論
判決は、一般論として、労働者が実作業に従事していないというだけでは、使用者の指揮命令下から離脱しているということはできず、当該時間に労働者が労働から離れることを保障されていて初めて、労働者が使用者の指揮命令下に置かれていないものと評価することができるということを述べました。したがって、仮眠時間であっても、労働契約上の役務提供が義務付けられているなど労働からの解放が保障されていない場合には労基法上の労働時間に該当することになります。
 ⑵あてはめ
①Y社から電話当番用の携帯電話を貸与され、午後8時から翌日の午前10時までの間、全国の顧客からの電話問合せに対応する業務を行っていたこと、②電話当番中の問合せ架電件数が1日当たり、10件や20件を超える日があり、平均すると1日5件程度あること、③手術後のアフターケアに関する問合せの電話が、多い日で1日3件程度あるため、Xらは、患者から手術後の痛みや患部からの出血等、患者の状態を把握して対処方法を説明し、再来院の予約をするなどしていたこと、④いたずら電話等がかかってくることが珍しくなかったこと、⑤電話当番担当者は、静かな場所で電話に出るようにしていたこと、⑥仮眠時間中に顧客から電話があれば目を覚まして対応していたこと等の事情から、労働からの解放が保障されていなかったと判断され、労働時間該当性が肯定されました。

4、解説
本判決の一般論は、従前の最高裁判例(大星ビル管理事件・平成14年2月28日)を踏襲する内容となっています。
本件のように、午後8時から翌日午前10時までについては電話対応を義務付けられていることからすれば、この時間については原則として使用者の指揮命令下にあると評価されることになります。本件では、仮眠時間については定められてはいませんでしたが、Xらは仮眠時間中も電話があれば対応していたため、仮眠時間についても労働時間性が肯定されています。
仮眠時間について、労働時間性が肯定されないようにするには、仮眠時間中については、「労働からの解放」を保障する必要があります。具体的には、労働者を複数名配置し交代で仮眠をとれるようにし、仮眠中に発生する業務については他の労働者で対応すること等の対応策が考えられます。

以上

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