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有期雇用と無期雇用の賃金、手当等の相違はどこまで許されるのか

2016年8月28日 お知らせ


有期雇用と無期雇用の賃金、手当等の相違は不合理化か?
ハマキョウレックス事件大阪高裁判決を参考に~
1  通勤手当の相違のみ違法とした地裁判決
 ハマキョウレックス事件の一審大津地裁彦根支部判決は、トラック運転手であり、業務内容がほぼ同一の有期雇用の社員(契約社員)と無期雇用の社員(正社員)の賃金格差について、通勤手当の相違のみ不合理(労働契約法20条)と認めた。
 この地裁判決は、正社員は、契約社員と業務の内容はほぼ同じだが、責任の程度や職務の内容及び配置の変更の範囲が有期雇用の社員とは異なり、会社の中核人材となる可能性があることを考慮すれば、通勤手当以外の諸手当(無事故手当、作業手当、給食手当、住宅手当、皆勤手当、家族手当)や一時金の支給、定期昇給、退職金の支給に関する相違は不合理とはいえないとした。手当やその他の労働条件について一つ一つその性質。目的の違いを検討することはしていない。
2 大幅に不合理の範囲を広げた高裁判決
 大阪高裁判決も、業務内容はほぼ同じであり、広域移動や人材登用の可能性に相違があるとした点は地裁判決と同じだが、労働条件の相違が「不合理と認められるもの」(労働契約法20条)に当たるか否かの判断に際し、個々の賃金、労働条件ごとに検討した点に特徴がある。
 具体的には、
(1)無事故手当については、優良ドライバーの育成や安全な輸送による顧客の信頼の獲得といった目的は、正社員、契約社員双方に求められる要請であるとして、正社員にのみ支給することは不合理と認められるとした。
(2)また作業手当については、手積み、手降ろし作業といった特殊業務に携わることに対する手当としての性格を有するので、これも正社員にのみ支給することは不合理と認められるとした。
(3)給食手当についても、それが従業員の給食の補助として支給される性質のものであること、通勤手当についても、それは通勤に要する交通費等の補てんをする性質のものであることから、いずれも職務内容や職務内容及び配置の変更の範囲とは無関係に支給されるべきものであるとして、正社員にのみ支給することは不合理と認められるとした。
(4)一方、住宅手当については、正社員は、転勤が予定されており、契約社員と比較して住宅コストの増大が見込まれる(例えば、転勤に備えて住宅の購入を控え、賃貸住宅に住み続ける等)ことや、配置転換の可能性のある正社員に有能な人材を獲得し、定着を図るという目的に合理性があるとして、正社員に対してのみ住宅手当を支給することを不合理と認められるとはしなかった。
(5)また、皆勤手当については精勤に対するインセンティブを付与して精勤を奨励する側面があることを考慮すると正社員と契約社員で相違を設けることの合理性に疑問も生じ得るが、被告会社では、全営業日に出勤した契約社員については昇給の可能性があることや、更新時に時給の見直しがあり得ることを踏まえれば、皆勤手当1万円を正社員に対してのみ支給することは、「不合理と認められるもの」に当たると認めることまではできないとした。
(6)皆勤手当については若干微妙な言い回しではあるが、その不均衡の程度が「不合理と認められる」とまでは評価できないとした。
 少し難しい議論になるが、この相違の程度問題、均衡原則の理解については、労契法20条の「不合理と認められるもの」の解釈によって異なりうるが、ここでは省略する。本件判決は、その点は明確にすることなく、皆勤手当と関連する昇給や更新時の賃金の見直しなどの労働条件も考慮すれば、その不均衡は「不合理と認められる」ほどではないとした。
3 本判決の評価と今後に与える影響
(1)本判決は、前掲大津地裁彦根支部判決や別記事で紹介した長澤運輸事件東京地裁判決とは異なり、業務内容、広域移動や人材登用の可能性の異動を踏まえつつ、個々の労働条件ごとに、その給付(賃金、手当)の目的・性質に照らして相違の合理性(不合理性)を判断している。このような判断枠組みは、国会での質疑や厚労省の施行通達の考え方にも合致しており、おそらく今後影響を与えてゆくだろう。
(2)家族手当や一時金支給、退職金など、他にも問題になり得る労働条件の相違は少なくない。今後、厚労省の同一労働・同一賃金に関する検討会で更に検討が進められ、ガイドラインの作成も予定されているが、各企業においてもより合理的な労働条件の在り方を検討する必要がある。

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