判例・事例紹介
職務限定合意と配転先での就労拒否、懲戒解雇の有効性~二見書房事件・東京地裁令和8年1月29日判決の教訓~
1 職務限定合意の認定と配転命令権
滋賀県社会福祉協議会事件・最高裁第二小法廷令和6年4月26日判決は、職務限定合意のある労働者に対する配転命令権を否定したが、本判決も同様の観点から職務限定合意の存在を認めた上で、編集企画業務から総務への配転命令を無効とした。
本判決は、原告を編集企画業務の派遣労働者から直接雇用(有期契約)に変更した経緯、労働契約書に業務内容を「編集企画業務」とのみ記載し、配転条項を含む就業規則の各条項の適用を除外する特約を記載していたことから職務限定合意を認定している。そして雇用期間経過後も、業務に従事し続けたことから、有期労働契約の無期契約への転化(黙示の更新。民法629条1項)を認め、職務限定合意も更新されたとした。
2 配転命令権を規定する就業規則の周知は職務限定合意を無効にするか
職務限定合意が認められれば、配転命令権は原則として存在しないが、本件の特徴は、被告会社が、30年以上以前に作成されていたが周知されていなかった配転条項の規定された就業規則を持ち出し、本件配転命令の数か月前に周知して労働契約法10条の類推適用による配転命令権の存在を主張した点である。
しかし、判決は、上記職種限定の特約は、就業規則の変更によって変更されない労働条件として合意されていたと認め、労働契約法10条但書の類推適用により職務限定合意の効力は維持されているとして、結論的に配転命令権を認めなかった。
また、被告会社は、配転を命じた事情について、原告の能力不足による解雇を回避するために配転をしたと主張していたが、判決は、解雇せざるを得ないような能力不足の事実は認められないこと等から配転の必要性を否定するとともに、配転による職務上の不利益の大きさや、事前の打診や説明を行うことなく配転を命じ、それを拒否されるや転職か訴訟しかないと通知する等の高圧的な態度を会社が取ったことから原告を排除する不当な動機・目的を認定して、配転命令権があったとしても権利濫用に当たり無効とした。
そして、配転命令が無効である以上、無断欠勤を理由とする懲戒解雇は懲戒権の濫用に当たり無効とするとともに、欠勤期間中の賃金を支払うよう命じた。
3 判決の教訓
職種限定の特約をする場合は、本判決のようにその特約の内容によっては就業規則を変更しても職種限定の特約が効力を持ち続ける場合がある。職種限定の合意は、その後の事情の変化の可能性を考慮した上で、慎重に行うべきであろう。
しかし、職種限定の合意をした場合でも、その後の事情によりその職にとどめることが難しくなる場合もある。事業再編や技術革新により当該職務がなくなるような場合や職務内容の高度化への本人の適応が難しい場合などは典型である。そのような場合は、適切な他の職務への合意による配置転換を打診し、配転の必要性と配転後の職務内容や労働条件を丁寧に説明することがまず求められる。
それでも同意が得られない場合は、変更解約告知、あるいは退職勧奨、解雇を検討せざるを得ないが、その丁寧なプロセスを踏むことなく配転を命じ、それに応じないことを理由に解雇した場合には、本件判決のように解雇は無効とされ、賃金の支払いを命じられることになるので注意が必要だ。
事情が変わることにより人事、労務管理を変更せざるを得ないことはあり得るが、無用な紛争を回避するために慎重な対応が求められる。
以上
