判例・事例紹介
従業員の熱中症発症後の死亡につき、会社の安全配慮義務違反による損害賠償が認められた裁判例 新星興業事件(福岡高裁令和7年2月18日判決・労判ジャーナル159号20頁)
1 事案の概要
Y会社の従業員である亡Pが、Y会社の業務としてのサウジアラビア出張中に体調不良を来し、死亡したことについて、亡Pの相続人であるXらが、Y会社については安全配慮義務違反があったとして民法415条に基づき、Y会社の代表取締役及び取締役について取締役の任務懈怠があったとして会社法429条1項に基づき、損害賠償請求を行った。
2 判決の概要
➢ Y会社の安全配慮義務
本判決では、使用者は、労働者に対し、労働者の生命及び身体等を危険から保護するよう配慮すべき義務(安全配慮義務)を負っており、熱中症が重篤な場合には死に至る疾患であることからすれば、使用者は、安全配慮義務の一環として、熱中症予防に努める義務を負うものと判断しました。
➢ Y会社の安全配慮義務違反
Y会社は、保冷材や冷房の効いた休憩室、スポーツドリンク、梅干しや塩昆布等を準備し、休憩時間を多めに確保したりするなど熱中症予防対策のための一定の措置を講じていたことは認められるものの、作業場所がどの程度の遮熱環境であるかを客観的に評価した上で熱中症発症のリスク評価を的確に行う意識に欠けていたものとして裁判所は安全配慮義務違反を認めました(約6300万円の損害を認める)。
3 コメント
⑴ 企業の熱中症対策の義務化
令和7年6月1日から、熱中症のおそれがある労働者を早期に見つけ、熱中症の重篤化を防止するため事業者に以下の対応が義務付けられています。
① 熱中症の自覚症状がある作業者や熱中症のおそれのある作業者を見つけた者がその旨を報告するための体制整備及び関係作業者への周知
② ア 事業場における緊急連絡網、緊急搬送先の連絡先及び所在地等
イ 作業離脱、身体冷却、医療機関への搬送と熱中症による重篤化を防止するために必要な措置の実施手順の作成及び関係作業者への周知
⑵ 本判決からみる事業者の熱中症対策
本判決によると裁判所は、会社は休憩室やドリンク等の用意をしていたが、それだけではなく労働者の睡眠の状況や水分及び塩分の摂取状況を的確に把握したり、摂取を指導する義務があったと判断しています。企業としては、熱中症対策を労働者任せにするのではなく、適宜労働者の体調を確認・把握や熱中症対策の指導を行う必要があるでしょう。
また、本判決では、WBGT(暑熱環境による熱ストレスの評価を行う暑さ指数)について何度も言及されています。令和7年6月1日から始まった事業者の熱中症対策義務の対象も「WBGT28度以上又は気温31度以上の環境下」とされています。WBGT値はWBGT指数計によって測定可能ですので、積極的な活用が望ましいです。
以上
