判例・事例

セクハラ~その2~セクハラによる法的責任

2012年4月26日 セクハラ・パワハラ等に関する事例・判例


1 刑事責任

 セクハラ一般が犯罪となるわけではありませんが、特に悪質な行為については、強制わいせつ罪(刑法176条)、強姦罪(刑法177条)、名誉棄損罪(刑法230条)が成立することがあります。また、つきまとい行為についてはストーカー規制法違反になります。

2 民事責任

(1)悪質なセクハラ行為については、セクハラ行為を行った本人はもちろんのこと、会社も損害賠償責任を負うことになります。

ⅰ 使用者責任

 会社は、従業員がセクハラ行為を行った場合には、原則として民法715条1項による使用者責任を負い、被害者に対し損害賠償をしなければなりません。同項但書によれば、会社が従業員の監督について相当の注意を尽くしていたような場合には例外的に免責されることとされていますが、この免責が認められることはごく例外的な場合に限定されており、ほとんどの場合に免責は認められません。

 また、使用者責任は、社員が「事業の執行について」他人に損害を与えた場合の責任ですが、この要件も広く解釈をされており、例えば、終業後社外での懇親会の席上でセクハラ行為が行われた場合であっても、「事業の執行について」行われたものであるとして、使用者責任が認められています。

ⅱ 債務不履行責任(職場環境配慮義務違反)

 使用者には、セクハラのない快適な職場環境を確保するように配慮する義務があるとされています。

 使用者責任とは異なり、セクハラの被害申告があった場合に、直ちに会社が事実関係を調査し、適切な対応を迅速にとれば、職場環境配慮義務違反はなかったと判断されます。

 ただし、通常、被害にあった従業員は、使用者責任と職場環境配慮義務違反による責任と両方を追及してきますから、セクハラが発生した場合は、会社は、ほぼ結果責任を負わざるを得ないと考えた方がよいでしょう。

(2)損害賠償額

 損害賠償額については、日本の裁判例では50万円~300万円くらいの金額が多いといえます。

 もっとも、最近では1000万円程度の賠償を認めたものもあり、高額化の傾向にあります(例えば、元大阪府知事のセクハラ事件は1100万円でした。ただし、そのうちセクハラに対する損害賠償額は200万円です)。

 損害賠償の内容は、精神的損害に対する慰謝料が中心ですが、その金額は、セクハラ行為の悪質性(服の上から体に触れたのか、それとも下着の中まで触ったり、姦淫行為まで及んだのか、その行為が繰り返されたのか等)や被害者が精神的な病気に罹患したか等の事情により異なってきます。

 また、悪質な事例で、本人だけでなく、両親に対する慰謝料を認めたものもあります(各20万円)―広島セクハラ(縫製会社)事件。

 ただ、トラブルになると、セクハラが原因でうつ病になった、PTSDに罹患したなどという診断書がよく出されますが、裁判所は、診断書が出たからといって、セクハラが原因でそうなったと認めるとは限りません。実際、セクハラ行為と精神疾患との因果関係(相当因果関係といいます)を否定した裁判例も多数あります。
 精神科医によっては、本人の訴えだけで、安易にPTSDの診断名を出す医師もいますから、その点では注意が必要です。

 また、慰謝料のほかにも、休業に対する賃金の支払い義務(民法536条2項)や将来の逸失利益(労働能力の喪失)も問題になります。

 セクハラによって現実に出社できなくなった期間の賃金や、後遺障害(PTSD等)によって労働能力が一部喪失したと認められた場合などには、喪失の程度や喪失期間に応じた経済的損害が認められる可能性もあるのです。

 こうなると損害賠償額がかなり高額となるため、会社にとっては大変です。

(3)過失相殺

 セクハラの被害者の側にも、被害の発生や拡大に一部責任があるとされて、過失相殺を認めた例もあります。(後に紹介する広島セクハラ(生命保険会社)事件では、2割の過失相殺を認めました。)

 また、第1回目のセクハラ行為後は、加害者と距離を置くなどしてその後の被害を未然に防止する余地もあったと考えられるから、被害者にもその被害の発生および拡大につき責任の一端があるとして、慰謝料の金額を抑えた裁判例もあります(広島セクハラ(縫製会社)事件)。

3 労災

 セクハラが繰り返し行われ、被害者がうつ病等の精神障害にり患した場合は、労災の問題も発生します。

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